これまで、高効率に細胞内へ移行するHIV-1 Tatタンパク質由来の塩基性ペプチドや、8残基のアルギニンからなるペプチド等を細胞内導入キャリアとして用いることで、生理活性タンパク質やペプチド、核酸などを細胞内へ効率良く送達させた応用例が数多く報告されている。これらの塩基性ペプチドの細胞内移行には、細胞膜プロテオグリカンが重要な働きをしていることが明らかとなっていたが、本研究では、塩基性ペプチドによる硫酸化多糖の認識と、細胞内移行機序との関連性を詳細に検討した。細胞膜に提示されるプロテオグリカンにおいて特定の糖鎖を合成できない変異細胞株(CHO細胞)を用い、塩基性ペプチドの細胞内移行に関して糖鎖の影響を詳細に検討した結果、糖鎖依存的にペプチドが細胞によって取り込まれ、硫酸化多糖への依存性がペプチドの種類によって異なることが明らかとなった。また、分岐型の塩基性ペプチドを用いた実験において、配列中に同じアルギニン残基数を有していても、アルギニンのクラスター密度の違いでヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸への依存性が異なる。ニークな性質を発見した。塩基性ペプチドの細胎内移行経路の一つとしてマクロピノサイトーシス経路が知られているが、阻害剤を用いた実験結果では、プロテオグリカンがこの経路に大きく寄与していることが確認され、更に移行過程において観察される細胞骨格アクチン再構成によるラメリポディア形成にも、プロテオグリカンが関与していることを新たに見出した。以上の結果は、塩基性ペプチドによる細胞膜の硫酸化多糖を標的とした細胞内導入ベクターの開発へ重要な知見になりうると考えられる。
|