インフルエンザウイルスに対するノイラミニダーゼ(NA)阻害剤として、ザナミビルやオゼルタミビルが市販されているが、RNAウイルスは変異が速く、耐性ウイルスの出現が常に危惧されており、既に出現しているものもある。そこで、我々は分子動力学法を用いて耐性NAの変異体構造を構築し、これと既知薬剤とのドッキングスタディを行い、薬剤耐性を評価することで、将来生じうる新たな変異NAに対しても薬剤耐性の有無を判断できると考え、研究を行った。 オゼルタミビル耐性NAの構造は、H5N1亜型2HU4.pdbの結晶構造を元に該当部位を変異し、さらに一般化ボルン溶媒モデル中での5ns分子動力学計算を行った後の最安定構造を用いた。今回は4種の耐性NA(H274Y、N294S、R292K、V116A)と、耐性変異のないNA(2HU4.pdb)の構造を用い、低分子化合物としてシアル酸のほか、NA阻害剤としてザナミビル、オゼルタミビル、ペラミビルを用いた。 ドッキングスタディにおける最高スコアを比較したところ、2HU4.pdbでは、シアル酸よりも他の3化合物が高スコアを示し、薬剤親和性を有することが示唆された。一方耐性変異(H274Y、R292K、V116A)を有するNAでは、オゼルタミビルはシアル酸よりも低スコアとなり、これらの蛋白質では分子動力学法とドッキングスタディを組み合わせることでオゼルタミビル耐性を評価することができた。また、ホモロジーモデリングにより構築した変異NAでは、実験事実に反する結果が得られた。すなわち本研究において、分子動力学法による耐性NA構造最適化が重要であることが示された。なお、以上の研究は全てMOEを用いて行った。 今後はこれらの研究結果を踏まえて、将来的に生じる可能性のある耐性変異の推定や、これら耐性変異にも有効な阻害剤の設計を行いたい。
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