医療において患者の自己決定権を尊重するというのは、当然の流れとなっているが、認知症高齢者は自己決定の基盤となる認知・判断の障害があり、意志能力の問題が法的にも問題とされる。現在の日本の状況では、明確な法的根拠も制度的手続きも無しに、認知症高齢者の医療上の決定を当事者以外が行っている。多くの場合、家族がその役割を迫られるが、認知症高齢者の介護を負担する立場としては、家族といえども真に適切な代弁者とは言い切れない。 死期が迫ってからの延命治療拒否というような限られた状況に、認知症高齢者の医療問題を押し込めるのではなく、もっと日常的な医療問題に関して検討する必要がある。終末期医療の問題が、医療問題の領域を超えて、広く社会一般の「死の準備教育」などの動きに連動したように、本研究の成果は、<老い>に関する準備教育的な役割を果たすことも期待される。本研究の具体的活動として、認知症高齢者の看護・介護業務に従事する人を対象とした哲学カフェを、平成18年10月より毎月1回、京都市長寿すこやかセンターなどで開催し、認知症高齢者をめぐる医療的ディスコミュニケーションの実態についてデータを収集中である。また、望ましい事前指定書とその運用方法についての議論を、患者の自己決定権をテーマとして、大阪ホスピス・在宅ケア研究会のメンバーと検討している。平成19年3月24日には、「もう一度自己決定を考える」というテーマで、一般市民の参加を含めた研究会を開催する予定である。
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