研究課題
本研究の目的を遂行するために、変異SOD1遺伝子を発現するトランスジェニックマウスの脊髄を用いてDNA修復酵素の発現について検討した。まず、酸化を受けたヌクレオチドであるグアニンを除去する酵素であるDNA修復酵素であるcxcguanine glycosylase 1 (ogg1)の発現の中枢神経内での発現について検討した。初めに免疫染色によってogg1の発現を検討した。Ogg1は脊髄前角の大型神経細胞において強い染色性を示したが、他の部位(大脳皮質、小脳、海馬)では染色性をほとんど示さなかった。ウエスタブロッティングではこれらのすべての部位である程度の発現が確認できたが、脊髄での発現量が最も高かった。次に各病期におけるDNA修復酵素の発現について検討したところ、ogg1は核において発症前早期の段階で既に非トランスジェニックマウスと比較して発現が亢進していたが、ミトコンドリアにおいては発現の亢進は認めなかった。一方、ogg1によって除去された後にDNAを再合成するDN polymerase β (polβ)は発症前早期ではトランスジェニックマウスでは非トランスジェニックマウスと比較して発現に差は認めなかった。また、ミトコンドリアにおけるDNA合成酵素であるDNA polymerase γ (polγ)は発症前早期においてすでに非トランスジェニックマウスに比べて発現の低下が認められた。一方、末期のトランスジェニックマウスでは核およびミトコンドリアで発現するいずれのogg1も発現が低下していたが、ミトコンドリアにおいてより顕著であった。Polβとpolγはいずれも末期においては非トランスジェニックマウスと比べて発現が明らかに低下していた。Polγは発症前早期よりもさらに低下していた。これらの結果から、脊髄前角の運動神経細胞では常に盛んにDNA修復が行われていること(おそらくこれは同部位においてDNAの過酸化が常に起こっていると考えられる)が明らかとなった。またDNA修復酵素の発現は発症前早期の時点ですでに認められ、さらにその変化はミトコンドリアでのみ特異的であり、中枢神経系の他の部位では認められなかった。これらの結果から、ALSでは病初期からミトコンドリアDNAの修復が障害されていることを示しており、種々の酸化ストレスに対して、特にミトコンドリアが脆弱である可能性が示唆され、ALSの原因の一端を担っていると考えられると考えられた。さらにこれらを応用してヒトALS患者でも検出することが可能になればALSの診断法としては画期的であり、さらにこれらのDNA修復酵素の障害を是正することができれば、ALS治療法の開発における標的となりえると考えられた。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Brain Research 1150
ページ: 182-189
Journal of Neuroscience Research (In press)
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 78(6)
ページ: 653-654