以下に、これまで得られた実験結果を記す。 低酸素下でのHIF-1蛋白発現の検討 まず低酸素下で特異的に発現するHypoxia-inducible factor 1 α(HIF-1α)蛋白発現をWestern blottingで確認し、低酸素状態設定の至適化を行った。 低酸素下での制限増殖型アデノウイルスの抗腫瘍効果の検討 human telomerase reverse transcriptase(hTERT)プロモーターを有する癌特異的制限増殖型ウイルスOBP-301およびコントロールとして野生型アデノウイルス(AdWT)を用い、様々なヒト癌細胞株における抗腫瘍効果をXTTassayで検討したところ、AdWTに比較して同濃度のウイルス量で優位に殺細胞効果が高かった。特に大腸癌細胞株DLD-1およびHT29、前立腺癌細胞株LNCaPにおいてその差が顕著であった。 低酸素下での癌細胞内のテロメラーゼ活性の検討 低酸素下でのヒト癌細胞におけるhTERT mRNA量をreal-time PCRで定量したところ、低酸素下ではhTERT mRNA発現の上昇が認められた。 低酸素下での制限増殖型アデノウイルスの感染効率の検討 低酸素下でのヒト癌細胞の細胞表面に局在するcoxsackie-adenovirus receptor(CAR)の発現量をflowcytometryにより測定した。通常酸素下とCAR発現量は変わらず、感染効率に差は認められなかった。 in vivoでのHIF-1と制限増殖型アデノウイルスの増殖に関する検討 マウス皮下腫瘍モデルを用いてHIF-1αおよびE1A発現を免疫染色法にて検討した。 現在までに上記のような結果が得られた。また、平成18年12月にISDS(学会)に参加し、本研究に関連する低酸素下における癌の治療法(化学療法や放射線治療)に関する様々な情報を収集できたことにより、我々が得られた結果の妥当性および癌ウイルス療法の新たな可能性が示された。
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