研究概要 |
本年度までに、ラット局所脳虚血モデルを用いて、脳神経における"虚血耐性ischemictolerance"現象獲得に関与すると思われる遺伝子発現のスクリーニングを実施した。 1.内頚動脈頂点をナイロン糸で作成した塞栓子で一時的に閉塞し、中大脳動脈領域に限局した虚血侵聾を再現性良く作成した。大脳半球に部分的梗塞巣が形成され、残存部にはより強い虚血侵襲に対して抵抗性を獲得する"虚血耐性"現象が獲得される。この脳組織の虚血24時間後における遺伝子発現をサブトラクションPCR法によりプラスミドライブラリーを作成し検討した。 2.1050クローンをリバース・ノザン解析により一次検定し、111クローンをダイターミネーター法で塩基配列を調べ、ホモロジー解析後、poly(A)RNA・ノザン解析による2次検定を行い、最終的に48クローンを真陽性と確定した。 3.このクローンはheat shock protein 70, rho C, heat shock protein 72, KIAA 82,chromogranin B,GFAP, synaptojanin, FGF antagonist-sprouty, poly (A) binding protein, heat shock protein 86と同定された。 4.これらの遺伝子群は、いわゆるストレス蛋白質、シナプス機能調節蛋白質、増殖分化に関与する蛋白質をコードするものである。局所脳虚血のみならず前脳虚血やてんかんなどの虚血耐性を誘導しうる侵襲後の脳に再現性良く発現した。 このような遺伝子発現スクリーニングの結果を踏まえて、各蛋白質レベルでのチロシン残基リン酸化を評価すべく、アミノ酸リン酸化解析や抗リン酸化チロシン抗体アフィニティカラムを用いたスクリーング作業を継続したい。また、本研究の最終目標は、冬眠における虚血・低温・飢餓状態における生体の耐性現象獲得や生存の分子機序解明である。冬眠の誘導と維持における分子機序解明は、宇宙開発・惑星間移動のみならず、極端な地球気象環境の変化に対する人類の適応のため必要であると考える。
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