研究概要 |
甲状腺乳頭癌は、橋本病等の慢性炎症を有するものに頻度が高いことが知られている。癌転移との相関のあるケモカイン受容体CXCR4発現につき、局所炎症ないしは腫瘍細胞からの炎症mediatorである一酸化窒素(NO)産生が、1転移を惹起する可能性について検討することを目的に、甲状腺乳頭癌培養細胞(K1,B-CPAP)ならびに外科的切除ヒト乳頭癌組織における、NOによるCXCR4発現、リンパ節転移との関連について検討した。ヒト甲状腺乳頭癌培養細胞株に、NO donorのDETA NONOateを添加、経時的にharvestした。1、培養上清のNO産生量をDAN法にて測定した。2、CXCR4 mRNA発現量をTaqMan probe法にて測定した。3、細胞融解液中のCXCR4蛋白発現量をWestern Blot法にて測定した。4、NO刺激、CXCL12を用いたchemoinvasion assayを行った。尚、同条件下で、NOS inhibitorのL-NAMEを添加し、同様の計測を行った。5、外科的切除甲状腺乳頭癌組織通常標本にて、CXCR4、ならびにNOにより産生されるnitrotyrosineを免疫組織化学にて検出、リンパ節転移を含む臨床病理学的因子との関連を検討した。その結果、1、甲状腺乳頭癌培養細胞で、NO donor添加により、NO産生量の増加がみられ、2、CXCR4 mRNAと蛋白は、1、より遅れて有意な発現がみられた。3、NO刺激によるCXCR4発現はfunctionalであり、CXCL12の濃度依存性にchemoinvasionの亢進が認められた。4、NO産生阻害剤添加により、培養上清中のNO産生、培養癌細胞におけるCXCR4 mRNA、蛋白発現の抑制が認められ、また有意なchemoinvasionの阻害が認められた。5、甲状腺乳頭癌組織におけるCXCR4発現は、nitrotyrosine生成、リンパ節転移と有意な相関を示した。これらの結果より、ヒト乳頭癌標本、乳頭癌培養細胞での、NOによるCXCR4発現誘導機序が明らかとなった。
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