研究概要 |
平成18年度の研究で、(a)ヒト由来甲状腺乳頭癌培養細胞を用いて、NOによるCXCR4発現誘導について解析し、NO刺激によりCXCR4 mRNA,functionalな蛋白発現が誘導されることが明らかとなった。NO合成阻害剤により、NO刺激により誘導されるCXCR4発現が抑制されることが確認された。(b)ヒト甲状腺乳頭癌組織を用いた解析で、癌組織におけるNO産生と、CXCR4発現、リンパ節転移との間に、有意な相関が認められた。この結果を踏まえ、甲状腺乳頭癌リンパ節転移モデルを作成し、同モデルに対し、NO合成阻害剤によるリンパ節転移抑制の可能性につき、検討を行った。まず、甲状腺乳頭癌培養細胞株(K1,B-CPAP)を用いたリンパ節転移モデルを作成することを目的に、in vitroで各培養細胞にLipopolysaccharide(LPS)添加、これに引き続くiNOS、CXCR4発現誘導の検討を行ったが、LPS添加によるiNOS、CXCR4発現誘導が認められなかった。このため、各培養癌細胞をヌードマウスの皮下に移植し、NO donorであるDETA NONOateの皮下注射を行い、NOによる甲状腺乳頭癌リンパ節転移モデル作成を試みたが、DETA NONOateによるリンパ節転移、遠隔転移形成は認められなかった。この結果を踏まえ、iNOS強制発現甲状腺乳頭癌培養細胞株作成を行った。iNOS cDNAをPCR法にて作成し、強制発現ベクター作成、Transfection法にて実験を行った。選択培地にてstableなiNOS強制発現細胞株を樹立した結果、これらの細胞でのCXCR4発現誘導が確認された。引き続きヌードマウスの皮下移植実験を行ったが、リンパ節転移、遠隔転移形成は認められなかった。しかしながら、上記皮下移植実験にて、DETA NONOateの皮下注射を行ったところ、腫瘍内、腫瘍辺縁部でのリンパ管新生が、podoplanin,ki-67抗体を用いた蛍光免疫染色にて確認された。これまで我々が報告した、甲状腺乳頭癌におけるNOによるリンパ管新生因子VEGF-D発現誘導、これに引き続くリンパ管新生(H.Yasuoka, et. al.,Mod Pathol,2005、Y.Nakamura,H.Yasuoka, et. al.,J Clin Endocrinol Metab,2006)の結果がin vivoでも明らかとなった。この結果を踏まえ、今後さらに研究を継続する予定である。
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