本年度は、嚥下口腔期における口唇・舌・口蓋・咽頭の統合的機能評価システムの確立を目指し、舌と口蓋による食塊形成能・食塊輸送能・食塊認知能の評価に関する実験を行った。 被験者は、健常有歯顎者6名とした。舌圧測定用実験用口蓋床を製作し、舌骨上筋群の表面筋電図と同期させ、嚥下時の舌機能を検討した。また、嚥下時の口腔感覚に関する主観的評価をVisual Analog Scaleによって行わせ、舌機能との相関関係を検討した。被験食品には、性状の異なる6種類の食品(水、ヨーグルト、かぼちゃペースト、3種の硬さに調整したゼラチン緑茶ゼリー)を用いた。舌圧測定部位は、口蓋の前方部、前側方部、後側方部、後方部の4ヶ所とした。 舌接触は、前方または前側方部から開始し、持続時間は、食塊の咽頭通過時にのみ接触する後方部において、他の部位より有意に短かった。また、最大舌圧は後方部において高くなり、舌圧積分値は前方部で大きくなる傾向が観察された。前方部、前側方部、後側方部の舌接触持続時間は、水や1.2%ゼラチン緑茶ゼリー嚥下時において、かぼちゃペーストや2.0%ゼラチン緑茶ゼリー嚥下時より、有意に短かったが、後方部の舌接触時間には食品による変化はみられなかった。また、嚥下の容易さに関するVAS値と、口蓋前方部、前側方部、後側方部における舌圧積分値との間に強い相関関係(r=-0.818)がみられた。 以上より、嚥下時の舌と口蓋による食塊形成能・食塊輸送能の中心となる口蓋への舌接触は、部位によって異なり、食品性状による影響を受けていることが明らかになった。また、口蓋前方部や側方部に対する舌接触は、嚥下時の食塊輸送における支点の役割を果たしており、嚥下時の口腔感覚のうち嚥下の容易さに関しては、口蓋前方部や側方部に対する舌の仕事量によって影響を受けている可能性が示唆された。
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