寄生原虫は、発育段階の変化に応じて短時間で形態を変え寄生を成立させるが、その発現制御の分子メカニズムは未だごく一部しか解明されていない。ユビキチンやSUMOは、様々な標的タンパク質に結合し、その機能や発現量を変化させる翻訳後修飾分子である。シャーガス病の病原体であるTrypanosoma cruzlでは、ヒト細胞内型原虫においてユビキチン-プロテアソーム系による鞭毛タンパク質の分解が必須であることが報告されているが、ユビキチンと拮抗的にも作用するSUMOに関する報告は全くない。そこで本研究はT.cruziのSUMO修飾に着目し、発育段階における関与など、特異的な制御機構を明らかにする事を目的として研究を行った。 今年度は1)抗T.cruziSUMO抗体を用いて、各発育段階におけるSUMO結合タンパク質の発現パターンの比較と細胞内局在性を観察した。昨年度作製した抗T.cruziSUMO特異抗体を用いて、ウエスタン法によりZc田勿のSUMO結合タンパク質を検出した。その結果、各発育段階においてバンドパターンが異なることから、SUMOの標的タンパク質は発育段階間で変動することが示唆された。また同抗体を用いた蛍光抗体法により細胞内局在性を観察したところ、全ての発育段階において、核と鞭毛付近に強い蛍光が観察された。2)特異的SUMO切断酵素(SENP)過剰発現T.cruz株の作製を行なった。ゲノム情報より得たSEND貴伝子より特異プライマーを作製し、PCRにより増幅後、過剰発現ベクターpTREXに挿入し、昆虫体内型原虫に導入した。ノザン法およびウエスタン法により、SENPの過剰発現が確認された株では、予想に反して致死的な表現型は示さなかった。このことからT.cruziSENPに特異な制御メカニズムの存在が示唆され、現在詳細な解析によりその分子メカニズムの解明を行っている。
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