研究代表者らの過去の検討により、アデノウイルスの受容体であるcoxsackievirus and adenovirus receptor (CAR)、インテグリン、ヘパラン硫酸との結合性をすべて欠損させたトリプル改変型アデノウイルスベクターは、細胞内へ取り込まれた後の核移行量が著しく低下していることを示唆する結果を見出している。このことから本研究では、アデノウイルスベクターの効率的遺伝子発現に関与する核移行や転写活性に必須の細胞側、ウイルス側の因子を検索・同定することを目的としている。 本年度は3つのアデノウイルス受容体とそれぞれ結合できない、3種類のシングル改変型アデノウイルスベクターを用いて、培養細胞への遺伝子発現能、および細胞内取り込み能を検討した。その結果、アデノウイルスのファイバーシャフトを改変し、細胞表面のヘパラン硫酸との結合性を欠損させたシングル改変型アデノウイルスベクターは、高い細胞内取り込み量が観察されているにもかかわらず、低い遺伝子発現しか示さないことを見出した。また、ヘパラン硫酸との結合性を欠損させたアデノウイルスベクターは、通常のアデノウイルスベクターと同程度の細胞結合能を保持しており、CARまたはインテグリンと結合できないアデノウイルスベクターよりも高い細胞表面結合能を持っていることも明らかとした。つまり、アデノウイルスのヘパラン硫酸との結合能は細胞表面への結合には大きく関与せず、細胞内における細胞内動態において重要な機能を担っていると考えられる。現在、これらの結果をもとにさらに詳細な検討を進めるため、リコンビナントファイバー蛋白質やRNAi技術によるアデノウイルス受容体ノックダウン細胞の作製を行っている。 本研究は計画通りに遂行され、これまでに報告されていない新たな知見を多数見出している。これらの結果をもとに平成19年度はより詳細な検討を行い、アデノウイルスの効率的遺伝子発現に関与する因子を同定し、本因子を利用することで効率的遺伝子導入を可能とする新規遺伝子導入ベクターの開発を行う。
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