研究概要 |
喫煙は,歯周病における環境面からみた最大のリスクファクターであり,歯周病の発症や進行および治療効果の低下に大きく関与する。また,歯周病の進行に伴い,歯周ポケット内ではグラム陰性嫌気性菌の増加が指摘されており,とくに菌の細胞壁を構成するリボ多糖(LPS)は,破骨細胞による炎症性骨吸収を強力に誘導することが報告されている。そこで本年度は,破骨細胞による骨吸収機能因子の発現に着目し,単球から破骨細胞に分化・成熟するに伴って発現の変化が予想される酸産生酵素(炭酸脱水酵素II型)およびタンパク分解酵素(カテプシンK,マトリックス金属プロテアーゼ(MMP)-9)の遺伝子発現に及ぼすニコチンおよびLPSの影響をreal-time PCR法で調べた。供試細胞は株化マウス単球(RAW 246.7)とし,50ng/ml RANKLを含む培地で10日間培養した。細胞をニコチンおよびLPSで刺激する際には,10^<-4>または10^<-3>Mニコチン単独刺激,10または50ng/mlLPS単独刺激および10^<-3>Mニコチン+50ng/mlLPSの同時刺激の条件下で行った。 炭酸脱水酵素II型発現は,コントロールに比べてニコチン単独刺激(濃度依存的)およびLPS単独刺激(濃度依存的)で増加し,それらの同時刺激でさらに増加した。一方,カテプシンK発現は,ニコチン単独刺激(濃度依存的)および50ng/mlLPS単独刺激で低下し,同時刺激でさらに低下した。また,MMP-9発現は,ニコチン単独刺激(濃度依存的)で低下したが,LPS単独刺激およびそれらの同時刺激ではコントロールと顕著な相違が認められなかった。以上のことから,ニコチンとLPSの骨吸収関連酵素の遺伝子発現に及ぼす影響は,酸産生酵素とタンパク分解酵素とでは異なることが示唆された。
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