本研究計画の背景は、小胞型グルタミン酸輸送体(Vesicular glutamate transporfer;VGLUT)1が破骨細胞のトランスサイトーシス小胞に発現していること、L-グルタミン酸(L-Glu)が破骨細胞からカルシウム依存的に分泌されること、L-Gluが破骨細胞に発現している代謝型グルタミン酸受容体mGluR8を介して細胞内cAMPを減少させることでトランスサイトーシスを抑制すること、の3点であり、課題は、1.L-Glu分泌を指標としたトランスサイトーシスの分子機構の解明、2.骨組織でのin vivoにおけるL-Gluシグナルの意義の解明、の2点である。平成19年度の科学研究費補助金により以下の知見を得た。 1.について。L-Glu分泌がカルシウム依存的であるため、カルシウム依存性プロテインキナーゼ(PKC)がトランスサイトーシスに関与するのではないかと考えた。PKC阻害剤は、L-Glu分泌を完全に阻害した。このことは、破骨細胞からのL-Glu分泌が、PKC依存的な経路により起こることを示唆している。SNARE複合体の関与については現在検討中である。また、トランスサイトーシス小胞の生化学的解析については、小胞を大量に単離する系を確立しようとしている段階である。 2.について。8週齢及び16週齢のVGLUT1遺伝子欠損マウスの骨形態計測を行った。8週齢では、野生型に比べてVGLUT1遺伝子欠損マウスで骨形成速度及び骨吸収速度が共に上昇しており、骨代謝回転の亢進が認められた。しかし、骨量には有意な差が無かった。16週齢では、骨形成速度及び骨形成速度に有意な差は認められなかった。骨量は、野生型に比べてVGLUT1遺伝子欠損マウスで10〜15%程度低下していた。卵巣摘出条件及び炎症性骨吸収誘導条件下でのL-Gluシグナルの意義については、時間が足りず検討できていない。
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