マイオスタチン特異的阻害分子を高発現する骨格筋幹細胞を移植し、筋ジストロフィーの治療効果を検討するため、移植に用いる骨格筋幹細胞の探索を行った。骨格筋から単離した細胞を表面抗原を用いて網羅的に分画し、増殖能、筋分化能を評価した。その結果、筋衛星細胞分画とPDGFRα陽性分画のみが高い増殖能を示し、高率な筋分化を示す細胞は筋衛星細胞のみであった。この結果から、移植の細胞源としては筋衛星細胞を用いることに決定した。マイオスタチン阻害分子とVenus(YFPのvariant)をIRESを介して同時発現するレンチウィルスベクターを用いて、筋衛星細胞に対し高効率な遺伝子導入を実現出来た。また、ウィルス感染による細胞毒性は観察されなかった。さらに、導入遺伝子のタンパクレベルでの高い発現を確認した。そこで、このマイオスタチン阻害分子導入筋衛星細胞のmdxマウスへの移植を行った。移植筋においてVenusの発現とジストロフィンの発現回復を認め、移植した細胞による骨格筋の再生が確認された。重要な事に、マイオスタチン阻害分子導入筋衛星細胞は対照の筋衛星細胞より高い移植効率をもたらした。さらに、移植後3ヶ月という比較的長期にわたる導入遺伝子の発現ならびにジストロフィンの発現も確認出来た。しかし、筋力の回復や遠隔筋(横隔膜)の病態改善には至らなかった。 本研究から、マイオスタチン阻害分子の導入は骨格筋幹細胞の移植効率向上に有効である事が示唆された。また、本研究の過程で見出されたPDGFRα陽性細胞は、高い増殖能を示し、筋分化能は低いが、脂肪細胞、骨細胞へ高率に分化する事が明らかになり、骨格筋内在性間葉系幹細胞である事が示唆された。PDGFRα陽性細胞の骨格筋脂肪化や骨化、線維化といった病態への関与が考えられ、PDGFRα陽性細胞を標的とした筋疾患に対する新たな治療戦略の創出につながると期待される。
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