本研究は、一酸化窒素(NO)供与体を利用したNOの肺選択的かつ持続的デリバリーによる効果的な難治性肺疾患治療を目的として、化学修飾により機能性分子を付与した新規高分子型NO供与体を開発するものである。 肺高血圧症などの難治性肺疾患は、肺におけるNOレベルの減少に加えて、活性酸素の産生が関与することが明らかとなってきている。そこでまず、NOの高分子キャリアとして、活性酸素であるsuperoxideanionを特異的に消去するSuperoxide dismutase(SOD)を選択した.SODの肺障害に対する治療効果を評価する目的で、Bisphosphonate(BP)を経肺投与して肺障害を惹起させたラットに対する治療効果を検討したところ、SODを経肺投与することで、BPによる肺障害が抑制できることが明らかとなった。 そこで次に、肺障害をより効率よく抑制することを目的に、炎症部位である肺細胞に効率よくSODをデリバリーすることが可能なDDSを開発することを試みた。SODにヘキサメチレンジアミンを化学修飾により導入し、SODの表面電荷を正に帯電させたカチオン化SODを作成し投与したところ、未修飾SODと比較して効率よく肺障害を抑制した。 以上、SODを経肺投与することにより肺障害が抑制可能であることが示されたことから、SODをキャリアとしたNO供与体の合成を試みた。SODにSATAを用いてSH基を導入し、isoamylnitriteと反応させたところ、SOD1分子あたり約5分子のNOがS-nitrosothiolを介して化学的に導入できることが確認できた。また合成後のSODの酵素活性を確認したところ、高い酵素活性を維持していることが明らかとなったことから、SODをキャリアとしたNO供与体は、肺高血圧症をはじめとする肺疾患を効率よく抑制できる可能性が示された。
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