本研究は、一酸化窒素(NO)供与体を利用したNOの肺選択的かつ持続的デリバリーによる効果的な難治性肺疾患治療を目的として、化学修飾により機能性分子を付与した新規高分子型NO供与体を開発するものである。 平成18年度は、活性酸素消去酵素であるSuperoxide dismUtase(SOD)誘導体にNO供与部位であるS-nitrosothiolを多数結合させた高分子型NO供与体の開発に成功した。平成19年度は、SODと分子サイズが異なる高分子である牛血清アルブミン(BSA)をNOのキャリアとした新たな高分子型NO供与体の開発を試みた。BSA誘導体にSAIAを用いてSH基を導入し、isoamylnitdteと反応させたところ、BSA1分子あたり約5-10分子の:NOがS-nitrosothiolを介して化学的に導入できることが確認できた。そこで、難治性肺疾患と同様、活性酸素が臓器機能低下に大きく関与する肝臓虚血再灌流障害をモデル疾患として取り上げ、作成した高分子型NO供与体あ活性酸素障害に対する治療効果を評価したところ、高分子型NO供与体は既存の低分子NO供与体(SNAPS-nitrosoglutathione)と比較して、虚血再灌流により惹起される肝障害を顕著に抑制可能であることが示された。以上、SOD、BSAをキャリアと'した高分子型NO供与体の開発に成功し、活性酸素が惹起する障害に対して優れた治療効果を示すことを明らかにした。肺疾患治療に応用するには、経肺投与デバイスの開発等の課題があるが、肺高血圧症などの難治性肺疾患には、肺におけるNOレベルの減少に加えて、活性酸素の産生が大きく関与することが明らかとなっていることから、今回開発した高分子型NO供与体は、難治性肺疾患の新しい治療薬として有望であると考える。
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