疾患、病態の分野において、細胞死は重要なテーマであり、アポトーシス関連分子を疾患治療の標的とした研究が盛んに行われている。一方、生体内や病的理由による細胞死は、必ずしもアポトーシス機構で進行するわけではなく、アポトーシスだけでは説明のつかない現象も多数存在し、細胞死制御による治療ストラテジーを構築するには、アポトーシスと非アポトーシス細胞死の両者を視野に入れ、疾患をより詳細に解明する必要があると考える。本研究では、心不全の基礎病態である心筋細胞死に焦点を当て、アポトーシスやネクローシスの場合とは異なった、オートファジーを伴う心筋細胞死の病因的役割を解明することを目的としている。これまで得られた実験結果として、心筋細胞では低酸素条件下において、Beclin-1を介したオートファジーを伴う細胞死が誘発され、オートファジーを抑制することにより、アポトーシスを介した心筋細胞死の亢進が観察された。このことから、オートファジー機構はアポトーシス機構と密接に関わっており、しかも虚血ストレスに対する防御機構として働いている可能性が示唆された。また、上記の条件下において、オートファゴソームの形成は、caspaseに依存しないことが明らかとなり、既知のアポトーシス誘導シグナル伝達以外の経路が存在する可能性も示唆された。現在、オートファジー誘導時のオルガネラと小胞輸送系を介した細胞内ネットワークを明らかにすることにより、心筋細胞死における新たな細胞死機構について詳細な検討を進めている。これらの結果は、オートファジーを伴う心筋細胞死において、細胞内分解系機構の一つであるオートファジーの、病態形成への役割及び、分子機構・機能的意義の解明に向けた重要な知見になり得ると考えられる。
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