研究課題
脳内セロトニン(5-HT)は体温調節機構において重要な神経伝達物質であることが示唆されている。本研究では体温調節機構における5-HTの役割を解明するため、ナトリウムチャネルブロッカーであるテトロドトキシン(TTX)により、5-HTの細胞体が存在する正中縫線核(MRN)の神経活動を抑制した時の体温調節反応を測定した。実験は無麻酔・無拘束ラットにおいて、マイクロダイアリシス(脳内微量透析)法、テレメトリー(無線式小型体温計)法に加え、効果器系の反応として心拍数(熱産生反応の指標)と尾部皮膚温(熱放散反応の指標)の測定を行った。実験には体重240-260gの雄Wistarラットを使用した。動物は人工気候装置を用いて12h:12hの明暗サイクル(6:00-18:00明期)、環境温23℃、湿度50%で飼育した。実験中以外の時間は、水、餌の摂取を自由とした。実験は全て明期の間に行い、全ての実験は測定開始から1時間を安静期間とした。測定開始60分後の平均体温、心拍数および尾部皮膚温を基準値として統計分析を行った。環境温度は23℃の下で行い、1時間の安静期間後にTTX(5μM)溶液の灌流を1時間行った。なお、TTX溶液灌流中以外は生理食塩水を灌流した。実験終了後にはプローブ挿入位置を染色し、脳を摘出し、ホルマリン固定後に脳部位の確認を行った。MRNへのTTX灌流投与により、有意な体温低下(約4℃)が観察された。この体温低下に先立ち、熱放散反応の指標である尾部皮膚温は急激な上昇(約5℃)を示した。熱産生反応の指標である心拍数はやや低下したが、統計的な有意差は認められなかった。以上の結果より、MRNへのTTX灌流投与後に起きる体温低下は、主に熱放散が上昇したことによると考えられ、体温調節機構におけるMRNからの5-HT投射の役割は、熱放散系に関与していることが示唆された。
すべて 2007
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The Journal of Physiological Sciences 57, Supplement
ページ: S185