本研究は、外国人特別研究員Jun-Won Park博士との共同研究により、新規胃がんモデル開発により悪性化機構を解明することを計画した。しかし、生殖系列で発現を維持できるCreマウスの開発が遅れたために計画を達成できなかった。一方で、すでに樹立できた新規大腸がん悪性化モデルを用いた悪性化機構の研究を同時に推進し、以下の新しい知見を得る事が出来た。 (1)大腸がん転移再発誘導の候補因子抽出:4種類の大腸がんドライバー遺伝子、Apc(A)、Kras(K)、Tgfbr2(T)、Trp53(P)変異を導入したマウスおよびオルガノイド解析から、AKT変異をコアに持つ腫瘍細胞が高い浸潤能を獲得することから、AKT共通に発現誘導する遺伝子群を対象に、データベース解析を実施した。その結果、大腸がんで誘導が見られる遺伝子、および予後との相関のある因子として、16遺伝子を抽出した。 (2)大腸がん転移再発誘導因子の特定:上記で抽出した16遺伝子について、shRNAにより発現抑制したAKTPオルガノイドを作製した。これらのオルガノイドを混合してマウス脾臓に移植し、形成した肝転移巣からDNAを抽出してreal-time PCRによりshRNAの頻度を解析した。その結果、転移頻度が有意に低下した4遺伝子を特定した。これらのshRNA導入オルガノイド単独で移植実験を行い、親株に比較して転移能が低下していることを確認した。 (3)大腸がん転移再発誘導の分子機構の研究:上記で特定された遺伝子の中に、ATPトランスポーターが含まれたため、ATP受容体のP2X、P2Yに着目し、発現抑制実験を実施した結果、特定のP2X発現抑制により転移効率が顕著に抑制された。 以上の結果により、大腸がん転移再発を誘導する分子経路を明らかにすることが出来た。この研究成果は胃がん悪性化機構の解明にも重要な知見となる。
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