研究課題/領域番号 |
18F18001
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
阿部 拓児 京都府立大学, 文学部, 准教授 (90631440)
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研究分担者 |
HEREDIA-CHIMENO CARLOS 京都府立大学, 文学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 衰退言説 / ローマ帝国 / 歴史叙述 / アッピアノス / プルタルコス / ニコラオス / ヘロドトス |
研究実績の概要 |
本年は一次史料の分析、関連文献の収集、分析概念の定義づけ、および小シンポジウムの開催をおこなった。研究代表者(阿部)は、前1世紀の歴史家ダマスコスのニコラオスの歴史史料集を分析した。また、研究分担者(エレディア=チメーノ)は共和政末期ローマにかんする、サルスティウス、アッピアノス、プルタルコスなどによる文献史料を分析し、その分析結果はすでに複数の論文を通して発表された。また、研究分担者は2018年12月に京都大学で開催された古代史研究会第17回大会にて、その研究成果の一部を“Decline and Concord in the action of M. Aemilius Lepidus (cos. 78 B.C.)”と題して発表した。 本研究課題の分析概念である「衰退言説」の定義については、西洋古代の歴史叙述および歴史哲学において、頽廃的(デカダント)な要素が重視され続けていた点を指摘し、衰退が社会・経済的なさまざまな要素を複雑に絡めながら発生することを強調した。これについては、2019年3月に京都大学で開催された古代史研究会第6回春季研究集会の小シンポジウム「古代ギリシア・ローマ世界における衰退言説」にて“Decline narratives: concept, project and examples”と題して報告し、参加者からさまざまな意見を得られた。 また、上述の小シンポジウムでは、ギリシア共和国よりアンティゴニー・ズールナツィ博士(国立ギリシア研究財団)を招き、「ギリシア歴史叙述における衰退の物語―ヘロドトスとオリエントの伝統―」と題した基調報告を中心に、登壇者である研究代表者、研究分担者、岸本廣大助教(同志社大学)、およびフロアーの参加者を交えて、活発な議論をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は当初に立てられた計画にそって進展しており、これまでに研究成果も順調に発表できている。論文の発表先媒体についても、スペイン、フランス、イタリア、日本をはじめ複数の国から刊行されている学術雑誌を選んでおり、じゅうぶんな国際性を有している。口頭発表にかんしては、京都大学で開催されたふたつの研究会の場で研究の中間報告をおこない、その場の質疑応答で得られた意見によって、研究の方向性をより明確に定めることができた。また、これらの研究会では、研究分担者(エレディア=チメーノ)と日本人研究者との交流も築かれ、下記の国際研究集会への協力を呼びかけることができた。 上記のような理由より、研究計画は「おおむね順調に進展している」と評価するにいたった。また、本年度の成果を踏まえ、次年度にはさらなる研究成果(学術論文)の発表と、とりわけ2019年11月開催予定の国際研究集会「変化の時代の衰退言説―後期共和政・帝政初期ローマの説明原理」の成功が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2019年度の最大の目標は、11月に京都大学でおこなわれる国際研究集会「変化の時代の衰退言説―後期共和政・帝政初期ローマの説明原理」の開催である。この国際研究集会では研究代表者、研究分担者をはじめ、海外からはキャサリン・スティール教授(グラスゴー大学)、ヴァレンティナ・アレーナ博士(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)、アンケ・ヴァルター博士(ニューカッスル大学)が報告者として参加し、また複数の日本人研究者も研究報告をする。この研究会で、研究代表者は「あるオリエント国家の衰退言説―ダマスコスのニコラオス『世界史』におけるメディア史」と題した研究報告を、研究分担者は「衰退言説:そのコンセプトと共和政後期・帝政初期ローマ史への応用」と題した序論的報告および「アッピアノスとサトゥルニヌス時代の分析:衰退言説の一事例か?」と題した個別研究報告をおこなう予定である。研究集会後には報告論集刊行にむけた準備をおこない、刊行元であるボルドー・モンターニュ大学出版局と交渉する。これと並行して研究分担者は以下の3編の論文を学会誌に投稿予定である。 ・「国制変革にたいするマルクス・カルプルニウス・ビブルスの執政官としての実践-反応、あるいは再興か」(スペイン語)―フランスの学術雑誌『古代史研究年報(Revue des Etudes Anciennes)』に投稿予定 ・「サトゥルニヌスと『ヘレンニウスに与える弁論書』-微細レベルでのアプローチ」(スペイン語)―ドイツの学術雑誌『クリオ』に投稿予定 ・「M・アエミリウス・レピドゥスの行動における調和と不安定」(英語)―日本の学会誌『西洋古代史研究』に投稿予定 また、研究代表者もローマ時代のギリシア史学史におけるオリエント叙述の伝統を明らかにすべく、リュディアのクサントスおよびレスボスのヘラニコスといった古典期初期の歴史家の史料を分析する計画である。
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