古墳時代における武器の生産と流通の実態を明らかにし、政治権力との関係性を解明するため、古墳及び集落出土刀剣及び鉄鏃を対象に、法量や形態に着目し、系統差の抽出と意義付けを行うと共に、生産・供給体制の実態の明確化を図った。鉄本体の型式学的検討や厚みの分析と合わせて、有機質製装具・矢柄の形態的特徴や製作技術を分析することにより、多元的な在地生産品と一元的な広域流通品を抽出でき、武器の生産と流通の重層的な様子を明らかにできた。また、上述した実物資料に即した成果を踏まえ、これらの刀剣や鉄鏃などの武器の流通体制や保有形態の在り方を明らかにするため、吉備および北部九州をケーススタディーとして設定した上で、古墳築造動向を精査し、どういった武器がどういった古墳に副葬されるかを検討した。その結果、集落や在地有力者の間に流通するものと、畿内勢力と深い関係を有する上位有力者にのみ保有されるものを抽出し、弥生時代以来継続する在地生産・流通体制及び、地域有力者に供給される上位の生産・流通体制の二重構造の存在を指摘した。さらに、地域の大型前方後円墳の副葬品には、両者の製品が混在することが明らかとなり、これらの被葬者を在地社会とヤマト政権を繋ぐ中間エリートとして位置づけた。さらに、上述した成果を踏まえ、世界各地の事例との比較を通じて、日本列島の国家形成過程の特質を明らかにし、人類史の中に位置付ける作業を行った。インカ帝国や前漢帝国を含めた比較を踏まえ、広範囲な地域を支配下に置く政治勢力は、金属器や金属の原材料の地域への流通が階層構造に埋め込まれている戦略や、配布品と在地生産品の二重構造などといった点が共通しているが、その実行には在地社会と中央勢力を繋ぐ地域有力者の存在が不可欠であった。以上の研究により、ヤマト政権による地域支配方式の実態がより明瞭となり、世界の考古学的議論への実証的還元も可能となった。
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