研究課題/領域番号 |
18F18005
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
工藤 順之 創価大学, 付置研究所, 教授 (70260122)
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研究分担者 |
MARCINIAK KATARZYNA 創価大学, 付置研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-10-12 – 2021-03-31
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キーワード | マハーヴァストゥ / 仏教梵語 / サンスクリット語写本 / ネパール写本 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、前年度途中までの受入研究者が研究分担者とともに平成30年より行ってきた共同研究を引き継ぎ、これまで行ってきた大衆部律典の仏伝である《マハーヴァストゥ》の新校訂本の研究を行ってきた。研究分担者は、その成果に基づいて、前年度(平成30年度)には校訂本の第1冊目として、《マハーヴァストゥ》第3巻を出版し、令和元年度では《マハーヴァストゥ》第2巻の校訂を済ませ、出版した。この出版されたテキストでは、基本となる12世紀の最も古い写本の読みを基に、他の写本の読みを文献学的手法によって逐一検討し、これまでの研究では知られていなかった、《マハーヴァストゥ》のより初期の段階のテキストの姿を明らかにした。 また、このテキストに見られる仏教梵語と呼ばれる特異な言語を分析し、それらを注記し、解説した。これはこのテキストのみで見られる語彙のみならず、このテキストを保持していた集団、即ち大衆部で用いられてた特徴的な語彙を含み、それによってこの集団と他の集団、例えば初期大乗経典を作り上げていった人々との関係性も指摘できるようになる。語彙と文法という、言語的アプローチによって仏教文献の理解が深まることになる。 また、写本研究の一環として、申請者と研究分担者は、この《マハーヴァストゥ》以外にも、特にネパールで発見されている様々な写本に関しての総合的知見を深める為に、広くは写本全般、狹くはネパール写本についての詳細な調査も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
三年間という研究期間ではあるが、その中で3巻本《マハーヴァストゥ》の校訂テキストを2冊出版することができた(校訂本のページ数でいえば、600ページと571ページである)。既に残りの一冊についても研究は進行しており、また同時にこのテキストに見られる特異な語彙、文法的特徴も確実に収集され、分類、分析されている。既に研究分担者はそれらの詳細な資料を元に、このテキストの文法全体を纏めつつある。このひとつのテキストを厳密な文献学的手法によって解明することによって、その手法は他の文献研究にも応用できる。その観点からすると、現時点での研究は単に校訂本が作成されているというだけではない、より多くの成果を生み出していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に、12世紀の最古の写本を基に、残りの1冊、すなわち《マハーヴァストゥ》第1巻の校訂本を作成することが第一の課題である。第二は、新校訂本(全3冊)に基づき、同書に見られる仏教梵語の詞典を作成する。この詞典はほぼ全ての語彙を網羅し、その用例を比較検討し、その読みを分類するものである。第三は、同書に見える特異な仏教梵語の文法を纏めることである。仏教文献は伝承の中で、地域・時代によって様々な言語的変化を纏ってきた。そのためテキストはそれぞれに様々な言語的変化を反映しており、時代の縦の変化(通時的変化)と横の変化(共時的変化)の両者を明確にしなければならない。それにはテキストごとの文法と語彙集が作成されていなければならない。この作業によって他の文献、特にこの《マハーヴァストゥ》を保持した大衆部と深い関係があるとされている初期大乗経典との関係を言語的側面から明らかにしていく予定である。
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