ラマン分光は分子の振動を光で計測する手法の一つであり、物理学、化学、生物学など、分子を対象とする様々な分野において標準的な計測手法として利用されている。一般的に用いられているラマン分光手法として、自発ラマン散乱を用いた手法が広く知られているが、自発ラマン散乱は非常に効率の悪い現象であり、微弱な信号強度しか得られない。近年、超短パルスレーザー光を用いて信号増強されたラマン散乱を得るコヒーレントラマン散乱を用いた手法の開発が盛んに進められている。 本研究では、コヒーレントラマン分光を用いた顕微鏡の開発、および、その発展型であるマルチモーダル非線形光学顕微鏡の開発、更には、それらを用いた生物試料の計測を目標として研究を行った。 超短パルスレーザーを用いた広帯域かつ高速なコヒーレントラマン分光(フーリエ変換コヒーレントラマン分光)を用いたレーザー走査型顕微鏡の開発を行い、その実証に成功した。構築した顕微鏡を用いて、10フレーム/秒という、広帯域ラマン顕微鏡として世界最高速のフレームレートで広帯域ラマンスペクトルイメージを取得できることを実証した。 上記コヒーレントラマン分光顕微鏡の拡張として、様々な非線形光学過程により生じる信号光を同時に検出することで、試料の様々な情報を取得することのできるマルチモーダル分光顕微鏡を開発した。開発した顕微鏡を用いて、生体試料を含む種々の試料の計測を行った。 開発したフーリエ変換コヒーレントラマン分光手法は、分子振動の時間波形を取得し、フーリエ変換することでスペクトルを再構成する仕組みによる。このような時間波形取得による手法のスペクトル分解能は、分子振動の時間波形の取得時間の長さにより決まる。本研究では、限られた長さの時間波形から、その長さ以上に相当するスペクトル分解能をコンピュテーショナルに再構成する解析手法を提案し、その実証に成功した。
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