研究実績の概要 |
本研究の目的は、海洋大気中で高い濃度で報告されているシュウ酸など低分子ジカルボン酸の分子組成とその安定炭素同位体比の測定から、大気と海洋の相互 作用をより深く理解することにある。そのために、西部北太平洋とインド洋で採取した海洋エアロゾル試料中の水溶性有機物の分子組成および分子レベル同位体比の解析に基づき、地球温暖化が進行している現在の気候と生物地球化学の結合を試みることにより、新しい地球大気化学の展開を図る。特に、重金属である鉄が大気エアロゾル中で触媒として酸化剤(OHラジカルなど)の生成に関与し、有機物の酸化・分解を駆動している可能性が高いが、その実体を観測と室内実験から明らかにすることである。 本年度は、低分子ジカルボン酸の主成分であるシュウ酸の重要な起源物質として考えられてきたイソプレンのオゾン酸化室内実験のデータ解析を行い、2つの論文にまとめた。第1の論文は、イソプレンの初期酸化生成物であるメチルテトロールなどの二次有機エアロゾルの組成について詳細な報告を行い、反応時間と共にその組成・濃度がどう変化するのかを明らかにした。また、その生成メカニズムについて考察を行い、シュウ酸の前駆体としての重要性を議論した。この論文は、アメリカ化学会の学会誌であるACS Earth and Space Chemistryに投稿し、現在、審査中である。第2の論文は、シュウ酸等低分子ジカルボン酸の生成の結果を酸化プロセスの提案を行いながら議論した。イソプレンからのシュウ酸、マロン酸、コハク酸の生成に関する報告が本研究が初めてなされたものである。この論文は、Science of the Total Environment, 769, 144472, 2021, https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.144472 に発表された。
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