研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属触媒を使用しないカップリング反応について、フロー化学とマイクロ波加熱とを組み合わせたアプローチでの反応効率化およびスケールアップ可能性について検討を実施した。 本研究では、合成ターゲットとして、通常はパラジウム触媒を必要とする鈴木カップリング反応に着目した。まず文献で報告されている反応の再現から実施し、オイルバスでのバッチ反応にて検証した。しかし、我々の検討においては再現不可能であり、純度の高い試薬や、脱水度の高い溶媒の使用、さらにグローブボックス中で反応を実施しても、収率は最大でも17-18%であった。1,3,5-トリメチルベンゼンの代わりにp-キシレンを使用しても収率に改善が見られず、最大で17%であった。触媒としてインドリンを用いたり、触媒量を増加させても同様であった。原因特定には至らなかったが、当研究室での実験環境の違いによる可能性が考えられた。さらにその他の種々の条件について検討したが、反応をある程度再現できたものもあったが、収率が低く論文発表が可能な水準に達することはできなかった。また、これを用いたフローでのマイクロ波反応の検討ができる状況ではないと判断した。 そのため別の反応系として、スチレンを用いたC-アルキル化反応の反応機構について実験及び計算化学視点から検討を行った。この反応は、関連した反応が文献で報告されている一方で、反応機構についての系統的な理解が不足していた。そこで、NMRなどを用いた反応速度追跡、DFT計算によるエネルギーの推定、重水素ラベリングによる反応物分析などの手法を用いて詳細に検討した。その結果、金属-エン型の遷移状態の存在が反応進行に重要であることを明らかにし、反応全体に及ぼすそれぞれの遷移状態のステップの影響を示した。
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