研究実績の概要 |
フェナントレン骨格は有機エレクトロニクスから創薬科学まで広く用いられる構造モチーフであり、これまでに数多くの官能基化手法が改札されてきた。しかし、4位ならびに5位に置換基を有するフェナントレン誘導体は立体的にひずんだ構造を有しており、その合成法は非常に限られていた。例えば4,5-ジフェニルフェナントレンの合成法は4または5段階を有し、低収率でしか目的物が得られないことが知られている。我々は「可視光によって促進されるアレーン類の脱水素環化反応」を探究する中で、最近、新たな4,5-ジアリールフェナントレンの合成手法の開発に成功している。B(C6F5)3を触媒として用いることで、1,4-ベンゼンジアセトアルデヒドおよび2当量のアリールアルキンの縮合により4,5-ジアリールフェナントレンを得た。そこで本年度は、引き続き「可視光によって促進されるアレーン類の脱水素環化反応」を探究しつつ、新たに開発した4,5-ジアリールフェナントレンの合成手法を用いて新規ナノカーボン分子の合成を行った。2分子の4,5-ジアリールフェナントレンと2分子のメタ置換芳香環(スペーサー分子)を組み合わせることで、歪んだ構造を有する新規環状分子の合成に成功した。スペーサー分子として様々な芳香環分子を組み合わせることで、ソルバトフルオロミズムやAggregation-induced emissionなど多様な機能を有する環状分子を合成することができた。また、その環状分子群の構造的特徴を具に調査し、結晶構造に与える影響や歪みエネルギーについて考察を行った。一連の研究は論文としてまとめ、2020年2月にJournal of the American Chemical Society誌に掲載された。現在、環状分子をユニットとして用いることで、さらなる新規分子群の合成を行っている。
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