研究課題/領域番号 |
18F18036
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
橋爪 大輔 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00293126)
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研究分担者 |
ROSAS SANCHEZ ALFREDO 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 電子密度分布解析 / 化学結合 / 14族元素 / 元素化学 / ゲルマニウム / ケイ素 |
研究実績の概要 |
本研究では、熱力学的に安定化し単離した、反応性が著しく高い「シラノン」や「ゲルマノン」の電子状態を単結晶X線回折法による電子密度分布解析によって観測し、これらの化学種の安定化法の開発や、反応性・物性研究に展開することを目的とし研究を行っている。ケトンのケイ素およびゲルマニウムの同族体である「シラノン」、「ゲルマノン」は、ケトンのように広く深く研究が行われていない。その理由は、これら化学種の安定性が著しく低いため、合成・単離を行うことが著しく困難であり、系統的な研究を進めることができないためである。本研究では極最近、特別研究員らが合成・単離に成功したシラノンとそこで用いられた安定化機構に着目し、シラノンやゲルマノン、それらの誘導体についてX線電子密度分布解析を行うことで、あるがままの分子全体の電子状態を明らかにし、より安定なシラノン等の設計指針を得ることを目標としている。
これまで合成に成功したボライリドを配位子とする熱力学的に安定なシラノン、そのルイス酸および、ルイス塩基錯体などの合成と結晶化を行った。そのうち、シラノン、ゲルマノンの結晶化に成功した。また、かさ高い置換基を利用した速度論的安定化を用いて、ゲルマノンの合成および、結晶化に成功した。このうち、速度論的に安定化したゲルマノンの電子密度分布解析を目指した単結晶X線回折データを収集した。データの質は良好であったが、構造解析の結果、10%以下の含有量のジオール体が混在していた。最終的には、完全に純粋な化合物を合成する必要があるが、予備的な電子密度分布解析を行った。
その結果、Ge=Oの強い分極とπ軌道電子密度の観測、予想されていなかった、4つのC-H…O相互作用があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで合成に成功したボライリドを配位子とする熱力学的に安定なシラノン、そのルイス酸および、ルイス塩基錯体などの合成と結晶化から研究を開始した。研究室に十分な不安定化合物合成用の器具が少なかったことから、真空ラインを中心に整備した。これらを使って、熱力学的に安定なシラノンの合成と結晶化に成功した。電子密度分布解析を目指した測定を行った。データは良好であったが、シラノン部分に激しい構造の乱れがあり、電子密度分布解析まで至っていない。現在、構造の乱れをなくすべく、配位子の設計の見直しを行っている。また、かさ高い置換基を利用した速度論的な安定化を使って、ゲルマノンの合成と結晶化を行った。非常に良好な単結晶が得られ、電子密度分布解析を目指した測定を行った。精度の高いデータが得られたが、解析の結果残念ながら、10%弱のジオールが単結晶中の構造に混在していた。最終結果とするには、十分なデータではないが、予備的な電子密度分布解析を行った。解析の結果、Ge=Oの強い分極とπ軌道電子密度の観測、予想されていなかった、4つのC-H…O相互作用があることを見出した。この結果とは独立に、Ge=O部分が置換基と熱分子内環化反応を起こすことが、未発表ながら確認されている。今回のC-H…O相互作用の存在は、この反応に関与する相互作用が基底状態においてすでに存在することを示していることが分かった。
解析手法として、電子密度分布解析において、結晶中の任意の点における、各電子の寄与を示す手法を調査し本研究に適用できるか、これまでに解析に成功した事例を使って検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ゲルマノンの研究を進める。それとともに、ゲルマノンとシラノンの反応性と中間体における電子密度分布について研究を行う。具体的には、未発表ながら(アミノ)(アルキル)ゲルミレンと亜酸化窒素と水との反応で、ゲルマノンの水付加物であるゲルマンジオールが生成することを見出している。この結果は明らかに反応系中にゲルマノンが生成することを示している。ところが、水を加えない亜酸化窒素のみの反応は進行しない。以上の結果を総合すると、系はゲルミレンと-Ge-O-N-N-環状中間体および、ゲルマノン-窒素錯体の平衡状態にあることが予想される。この平衡を逆に見ると、窒素のゲルマノンによる酸化反応である。当該年度は、この反応中間体を、安定ゲルマノンを用いて単離・結晶化し、電子密度分布解析によって中間体の電子状態を明らかにし、反応機構を解明する。
昨年度、ゲルマノン単結晶中でジオール体が混在することを記述した。今年度は速度論的安定化によるゲルマノンの研究に決着を付け、熱力学的に安定なものと比較するために、合成法と結晶化法を検討する。
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