研究課題/領域番号 |
18F18037
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
酒井 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (30235105)
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研究分担者 |
TAN TZE HAO 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-07-25 – 2020-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / コバルトポルフィリン / 硫化カドミウム / 一酸化炭素 |
研究実績の概要 |
我々は、犠牲還元剤と[Ru(bpy)3]2+からなる水溶液中での光触媒反応系において、コバルトポルフィリンが二酸化炭素還元触媒として機能し、高選択的に一酸化炭素を生成することを見出している。この光化学的二酸化炭素還元触媒反応系においては、触媒分子であるコバルトポルフィリンは安定であるものの、光増感剤である[Ru(bpy)3]2+が分解することによって光触媒機能が失活してしまうことが明らかになっている。そこで本研究課題においては、[Ru(bpy)3]2+に代わる光増感剤として、より高い安定性が期待できる半導体である硫化カドミウム(CdS)に着目し、犠牲還元剤、CdS、およびコバルトポルフィリンからなる水溶液中での光触媒反応系において検討を行った。 コバルトポルフィリンを含まない触媒反応系においては、二酸化炭素還元反応よりも水素生成反応が優先的に進行したのに対し、正電荷を持つコバルトポルフィリンを添加した場合においては、水素生成反応よりも二酸化炭素還元反応が優先的に進行した。一方、負電荷を持つコバルトポルフィリンを用いた場合においては、このような効果は一切観測されなかった。以上の結果は、正電荷を持つコバルトポルフィリンは、弱塩基性水溶液中において負に帯電したCdSに静電的な相互作用によって引き寄せられるため、CdSからの高エネルギー電子の移動が進行しやすいのに対して、負電荷を持つコバルトポルフィリンは、CdSとの静電反発によってCdS近傍に存在できないため、高エネルギー電子の移動に不利であり、触媒反応に関与できないということを示している。従って、犠牲還元剤、CdS、およびコバルトポルフィリンからなる水溶液中での光触媒反応系においては、光増感剤であるCdSと二酸化炭素還元触媒であるコバルトポルフィリンが静電的な相互作用によって近接していることが重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、高耐久かつ高選択的に二酸化炭素還元反応を駆動できる水溶液中での光触媒反応系を構築することを目的としている。この目的を達成するためには、高い耐久性を持ち、高効率かつ高選択的に二酸化炭素還元反応を駆動できる高性能な触媒を開発することが必要であるだけでなく、高い耐久性を持ち、優れた光増感機能を示す光増感剤を開発することも不可欠である。「研究実績の概要」で記したように、犠牲還元剤、[Ru(bpy)3]2+、およびコバルトポルフィリンからなる水溶液中での光触媒反応系においては、[Ru(bpy)3]2+の分解が主な失活理由であることが判明しているため、本年度は、広く一般的に用いられている[Ru(bpy)3]2+に代わる光増感剤として、高い耐久性が期待できる半導体である硫化カドミウム(CdS)を用いた水溶液中での光化学的二酸化炭素還元反応に関して検討を行った。 犠牲還元剤、CdS、およびコバルトポルフィリンからなる水溶液中での光触媒反応系において検討を行った結果、CdSの高い耐久性によって光化学的二酸化炭素還元反応の触媒活性は6時間以上にわたって持続することが明らかとなった。一方、CdSを用いたことによって、水素生成反応も同時に進行してしまうため、触媒反応の選択性が著しく低下してしまうことも明らかとなった。従って次年度は、CdSを用いた光触媒反応系において、二酸化炭素還元反応の選択性を向上させることを目的として研究を進める必要がある。しかし、CdSを用いることによって光触媒機能の耐久性を大幅に向上させることに成功したことから、本研究課題は当初の計画通り順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
「これまでの進捗状況」に記したように、次年度は犠牲還元剤、CdS、およびコバルトポルフィリンからなる水溶液中での光触媒反応系において、水素生成反応の進行を抑制し、二酸化炭素還元反応の選択性を向上させるための研究を進める計画である。水素生成触媒反応はCdS表面において進行していることから、有機吸着剤によるCdSの表面修飾を検討する計画である。用いる有機吸着剤の分子量や被覆率を高度に制御することによって、正電荷を有するコバルトポルフィリンとの静電相互作用は阻害せずに、水分子の表面吸着のみを立体障害によって阻害し、水素生成反応の進行を抑制することができると期待している。 一方、CdSを用いた光触媒反応系においては、触媒反応の進行に伴ってCdS粒子の凝集が徐々に進行し、光増感機能が低下してしまうことが判明している。上述の有機吸着剤を用いた表面修飾によって、CdS粒子の凝集を防ぐことも可能になると期待できることから、この研究を進めることによって、二酸化炭素還元反応の選択性を向上させるだけでなく、耐久性のさらに向上も可能であると期待できる。
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