研究課題/領域番号 |
18F18044
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村上 恭和 九州大学, 工学研究院, 教授 (30281992)
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研究分担者 |
CHO YOUNGJI 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡 / 電子線ホログラフィー / 画像処理 |
研究実績の概要 |
本研究は、物質が示す電磁場を局所的に解析できる電子線ホログラフィーの高度化を目的としている。これまでの研究により、電子線ホログラフィーの空間分解能は十分に向上し、原子分解能での電磁場観察も可能な段階に至っている。しかし微弱な電磁場を検出するための測定感度は、なお一層の改善が要求される。この研究目的を達成するために、2018年度に以下の研究を実施した。 (1)電子線ホログラムに記録される位相情報の分離技術の確立:電子線ホログラフィーでは、物質を透過した電子の位相変化の解析を通して、電場・磁場の分布を明らかにする。この際、物質が示す電場・磁場の情報を与える位相変化に、結晶内での電子回折に由来する付加的な位相変化が重なる場合が多い。本研究では、不要な回折由来の位相情報を低減するために、ホログラムの取得条件と解析プロセスの最適化を図った。特に、同一視野に対して、励起されるブラッグ反射の相対強度を変えながら系統的なデータ収集を行うことで、回折由来の位相情報を制御、或いは必要とする電磁場情報と分離することが可能であることを示した。 (2)大容量・大規模な電子線ホログラム画像データの処理技術の整備:ホログラフィー電子顕微鏡の制御ソフト、ならびにホログラムからの位相再生処理ソフトの改良を図り、大規模な画像データを効率的に収集・解析するための技術基盤を整備した。特に位相再生の精度向上に有効な複数画像の積算平均化プロセスを高度化するため、画像データ間の位置調整やアーティファクトの除去に関わる技術を強化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の理由から、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断される。 2018年度の研究計画として、(1)電子線ホログラムに記録される位相情報の分離技術の確立と、(2)大容量・大規模な電子線ホログラム画像データの処理技術の整備の二課題を設定した。このうち(1)の課題については、暗視野電子線ホログラフィーとう技術を活用しながら、電子回折の励起条件を調整することで、不要な回折由来の位相変化を効果的に抑制できることを実証した。研究成果はMater. Trans.誌に投稿し、採択されている。(2)の課題については、機械学習を用いた電子顕微鏡画像の認識技術の開発を進めている共同研究者の支援も受けながら、コントラストに乏しい位相再生像の識別や、複数画像のドリフト(位置ズレ)を電子線ホログラムの状態で補正するための技術を整備し、本研究の推進に資する技術基盤を得ることができた。 いずれも当初計画に則った研究が、適切に実施されたものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の成果・実績を踏まえて、次年度は以下の課題を設定し、研究を進める。 (1)機械学習を用いた画像データの処理:前年度の研究課題(2)を発展させる形で、機械学習を用いた画像データ処理の技術を強化する。具体的には、大量に取得した電子線ホログラムとその位相再生像から、データの積算平均化に利用できる画像(或いはその一部)を抽出するための技術を整備・高度化する。 (2)触媒系微粒子への展開:上述した機械学習による画像認識の手法を、ロジウム系など実際の触媒ナノ粒子の解析に応用する。具体的には、大量に取得したナノ粒子の画像データをもとに形状分散性の統計的解析を実施するほか、ナノ粒子の表面に修飾された有機物を弱位相物体に見立てて、位相再生像の解析を通した精緻な形態解析を試みる。 (3)研究の総括:2018年度、ならびに2019年度の研究を総括し、電子線ホログラフィーによる電場・磁場の高感度化に関して収められた成果を取り纏め、発表を行う。
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