半導体や絶縁体の熱輸送をフォノン輸送の観点より考えて、ナノ構造や界面構造で熱伝導を制御する科学が近年発展している。さらに、ボトムアップ自己組織化の発展にともない、フォノン波の特性長と同程度の長さスケールの構造を用いれば、フォノンの波動性や粒子性と両方を利用した制御が実践できる可能性がある。そこで本研究では、フォノニック結晶や低次元材料の熱輸送とその制御性を理解し、フォノンエンジニアリングを実践する。 最終年度の4ヶ月間は、これまでの分子シミュレーションによって得た研究成果について、論文の執筆を進め、投稿・発表した。その中でメカニズムの議論を深めた。グラフェンと二硫化モリブデンの2次元構造を積層した構造については、前年度に、熱輸送計算と機械学習を組み合わせて熱伝導率を最小にする最適構造を同定する手法を用いて面直方向の熱伝導率が非常に小さい非周期的な構造を設計することに成功したが、今年度は、フォノン透過関数の分布関数、Participation Ratio、固有モードのマッピングなどの解析を進め、メカニズムがフォノンの局所化に由来することを明らかにした。フォノン透過関数の分布関数はアンダーセン局在的な様相を示し、Participation Ratioからも強い局在が示唆された。また、段階的に欠陥を導入するとフォノンが非局在化して熱伝導率が上昇していく傾向も確認した。一方で、ランダムな構造ではなく、特定のグラフェンと二硫化モリブデンの配置で熱伝導率が最小値を取ったが、これは薄膜のために配置がランダム(ホワイトノイズ)になるほほどの自由度がないためであると考えられる。さらに、以上の計算結果を実験で実現するために、実験グループと共同研究をはじめ、シンプルな構造の熱伝導率計測ができるようになっている。
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