研究課題/領域番号 |
18F18093
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
横溝 岳彦 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60302840)
|
研究分担者 |
CHI YUAN 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
キーワード | PLY / BLT2 / 上皮細胞障害 / ロイコトリエン |
研究実績の概要 |
肺炎球菌感染による個体死亡は、肺炎球菌が産生する毒素ニューモライシン(PLY)によると考えられているが、その詳細は不明である。受入研究者は、生理活性脂質受容体であるBLT2の欠損マウスがPLYに対して感受性が高く、重篤な急性肺傷害を生じて早期に死に至ることに着目した。PLYを投与されたマウスは、気管支収縮や血管透過性の亢進を呈し、これはBLT2欠損マウスでより著明であった。PLY投与によって肺胞内には気管支収縮物質として知られるロイコトリエンが蓄積したことから、ロイコトリエン受容体(CysLT1)の拮抗薬を前投与したところ、PLY毒素による個体死が70%程度レスキューされた。しかし、30%程度は個体死を回避できないことから、ロイコトリエンの作用以外でも死に至る可能性が示唆された。また、肺中でロイコトリエンを産生する細胞も不明であることから、以下の解析を行った。1)PLY依存的な上皮細胞障害をBLT2が抑制している可能性を調べるため、肺胞上皮細胞にBLT2を過剰発現する細胞を樹立した。LDHの放出を指標にPLYに対する感受性を調べたところ、BLT2過剰発現がPLYによる細胞障害を抑制することを見いだした。また、内因性BLT2の役割を調べる目的で、野性型およびBLT2欠損マウスより皮膚表皮角化細胞を単離・培養し、PLYに対する感受性を調べた。BLT2の欠損がPLYによる細胞障害を著しく上昇させることを明らかにした。2)野性型およびマスト細胞を欠損するKitW-shマウスにPLYを気道内投与して、肺胞洗浄液に含まれるロイコトリエンC4, D4, E4の量をLC-MS/MSにて測定した。KitW-shマウスは、野性型マウスと同等量のロイコトリエンを産生したことから、PLY依存性のロイコトリエン産生はマスト細胞以外の細胞が行っていることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、BLT2がPLYによる上皮細胞の細胞死を回避させることを、LDHの放出・WST細胞障害性アッセイ・DAPIによる核染色・細胞の形態変化を指標に、様々な角度から明らかにしてきた。また、各種阻害剤を用いた予備的検討から、BLT2が細胞死を抑制するメカズムを掴みかけている。今後、BLT2のPLY依存性上皮細胞死抑制のメカニズムを明らかにすることが、肺炎患者の予後改善に繋がると考えている。 また、PLYが肺中で大量のロイコトリエンを産生させて気管支収縮や血管透過性の亢進を引き起こすことは明らかになっていたものの、ロイコトリエン産生のメカニズムについては不明であった。ロイコトリエン産生により重度の喘息様の症状を引き起こしていたことから、マスト細胞がロイコトリエン産生の原因細胞ではないかと予想されたが、本研究によりPLY依存性のロイコトリエン産生は、マスト細胞以外の細胞が行っていることが明らかとなった。今後、マクロファージや好中球をはじめとした他の細胞の寄与を調べ、PLYによるロイコトリエン産生のメカニズムを解明する。これは、既に喘息治療薬で認可されているロイコトリエン受容体拮抗薬の肺炎患者へのドラッグリポジショニングの可能性に繋がると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の4点について解析を行う予定である。 1)上皮細胞の細胞死におけるBLT2の役割: BLT2による細胞死回避のメカニズムを、細胞内シグナル分子に対する阻害剤を用いることで明らかにする。また、BLT2がPLYの細胞膜孔形成に与える影響を、走査型電子顕微鏡を用いて明らかにする。 2)PLY投与時のロイコトリエン産生細胞の同定: Gr-1抗体や、クロドロネートリポソームを投与し、それぞれ好中球、マクロファージを消失させたマウスにPLYを気道内投与し、肺胞洗浄液をLC-MS/MS解析して、ロイコトリエンをはじめとした生理活性脂質の一斉定量を行う。産生細胞候補が決まれば、その細胞にPLY刺激を行い、ロイコトリエン産生を観察する。 3)BLT2とCysLT1受容体シグナルのクロストーク:BLT2のCysLT1シグナルに与える影響を観察する。BLT2とCysLT1受容体シグナルのクロストークの有無、CysLT1 mRNAの安定性に与える影響を調べる。 4)ヒト肺炎球菌肺炎患者におけるNSAIDs、CysLT1拮抗薬服用の影響(臨床データを用いた解析):本学呼吸器内科と総合診療科の患者データを用いてNSAIDs、 CysLT1拮抗薬を長期間内服していた肺炎球菌による肺炎で入院し加療を行った患者の臨床経過をretrospectiveに観察し、臨床経過に差が無いか調べる。
|