研究実績の概要 |
肺炎球菌感染による個体死亡は、菌が産生する毒素ニューモライシン(PLY)によると考えられているが、詳細は不明である。受入研究者は、生理活性脂質受容体BLT2の欠損マウスがPLYに対して感受性が高く、重篤な急性肺傷害を生じて早期に死に至ることに着目した。PLY投与によって肺胞内に気管支収縮物質ロイコトリエン(LTs)が蓄積したことから、BLT2欠損マウスではLTsに対する感受性が亢進していることが示唆された。BLT2欠損マウスでは、血管内皮細胞におけるLTs受容体CysLT1の発現が高く、CysLT1の拮抗薬の前投与により、PLY毒素依存的な個体死が70%程度レスキューされた。しかし、30%程度は個体死を回避できないことから、LTsの作用以外で死に至る可能性が示唆され、以下の解析を行った。1)BLT2を過剰発現する肺胞上皮細胞を樹立した。LDHの放出・PIによる核染色・細胞の形態変化を指標にPLYに対する感受性を調べたところ、BLT2過剰発現がPLYによる細胞障害を抑制することを見いだした。また、野性型およびBLT2欠損マウスより皮膚表皮角化細胞を単離・培養し、PLYに対する感受性を調べたところ、BLT2欠損細胞ではPLYによる細胞障害が著しく上昇していた。2)マスト細胞を欠損するKitW-shマウスにPLYを気道内投与して、肺胞洗浄液に含まれるLTC4,D4,E4の量をLC-MS/MSにて測定した。KitW-shマウスは、野性型マウスと同等量のLTsを産生したことから、PLY依存性のLTs産生はマスト細胞以外の細胞が行っていることが明らかとなった。3)CysLT1とBLT2を共に発現する細胞を樹立した。BLT2阻害剤の添加により、CysLT1の発現が上昇し、LTD4依存的なERKリン酸化が亢進したことから、BLT2はCysLT1受容体シグナルを抑制していることを見いだした。
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