外国人特別研究員の出身国であるサハ共和国で多発しており、我々が新規同定した疾患、Mucopolysaccharidosis Plus Syndromeに関して基本的な病態の解析を行った。セルラインでゲノム編集技術を用い、原因遺伝子であるVPS33Aのノックアウト細胞、また患者特異的な遺伝子変異をノックインした細胞を作製した。ノックアウト細胞ではオートファジーやエンドサイトーシスといった細胞内小胞輸送は完全にストップしていたが、ウイルスベクターを用いて様々なドメインに変異を持つVPS33Aをレスキュー実験したところ、患者に見られる変異体を用いたレスキューでもこれらの細胞内小胞輸送は回復したので、我々の患者細胞で既報の事実が確かめられたが、その一方で、予想外にもVPS33Aが含まれる輸送複合体(HOPS)との結合が見られない変異体によるレスキューでも細胞内小胞輸送が回復した。このVPS33A変異体においてもHOPS複合体の主要コンポーネントは形成されていたことから、既報とは異なりVPS33AはHOPS複合体に結合せずとも細胞内小胞輸送を調節している可能性が示唆された。また、VPS33Aのノックダウン実験では細胞内輸送機能の維持に必要なタンパク質量の閾値は正常の10%程度であることが明らかになった。興味深い事に、Mucopolysaccharidosis Plus Syndromeの主要な病態であるムコ多糖の蓄積は、細胞内小胞輸送の障害やレスキュー状態に関わらず(蓄積が)認められていたので、ムコ多糖の代謝は上記で解析したHOPSが関与する細胞内小胞輸送とは別の経路で制御されている可能性が示唆された。これらの結果をもとにして研究を進め、疾患の病態解明のみならず、細胞内小胞輸送のメカニズムの一端に迫る事が今後期待される。
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