研究実績の概要 |
超偏極13C核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging, MRI)は炭素の安定同位体である13Cで標識した化合物の13C NMR/MRI信号を一時的に数万倍に励起することで、その生体内における代謝反応をリアルタイムに可視化する最先端のMRI技術である。様々な臓器のがん診断や心機能評価において、欧米では既に数百人規模の臨床試験が行われ、その有用性が実証されている。その反面、現行の動的核偏極(Dynamic Nuclear Polarization, DNP)型の13C励起装置による臨床初期コストは3-4億円と非常に高額であり、本技術の国内普及を妨げる主因となっている。受入研究者・松元は、この超偏極13C MRIの臨床コストを10分の1に抑制すること目指し、水素ガスと量子技術を組み合わせたパラ水素誘起分極(PHIP)法による13C励起技術の研究開発を行っている。 特別研究員は昨年度までに、超偏極13C MRIの臨床応用において、最も重要な代謝プローブであるがPHIP法では通常励起できないピルビン酸を励起するためのサイドアーム型PHIP励起装置を構築した。NMR技術を駆使して決定したピルビン酸前駆体分子の全てのJ結合定数から、量子統計力学シミュレーションにより13C励起条件を最適化し、励起プロセスに実装することで、最終的に1.5Tの熱平衡状態と比較してピルビン酸の13C MRI信号の4万倍励起を達成した。2年度目は当研究室の他の大学院生と共に、スパースサンプリングされた部分的な13C MRI画像データから、人工知能技術の1つである深層学習とテンソル分解によるノイズ除去を組み合わせて画像を再構成する高速撮像法の研究開発も進め、代謝イメージングの画質を落とすことなく、時間分解能を約5倍向上することに成功した。
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