研究課題
本研究の目的は、アルファベット表記を用いる言語話者を中心に検討されてきたバイリンガル相互活性化プラス(BIA+)モデルが、漢字圏言語話者の語彙処理にどこまで適用されるかを認知神経科学手法によって検証することである。日本語と中国語における書字が同じ漢字語と書字が類似する漢字語を、実際の視覚処理の軌跡を追う視線計測、認知処理の時間分解能に優れる脳波計測、および空間分解能に優れる機能的磁気共鳴画像法(fMRI)等といった複数の生体反応計測を通して比較検討し、漢字圏バイリンガルの語彙処理における書字表象の役割を見出す。それを踏まえて、2019年度では、中日バイリンガル(中国語を母語とする日本語学習者)による日本語と中国語の漢字2字熟語、特に中国語と日本語で字体が同じまたは類似する同義語、いわゆる日中同根語の認知処理過程を検討した。まず、字体類似度に注目し、中日バイリンガルの語彙処理過程を書字認知と意味統合の2段階に分けて、視線計測装置を用いて検討した。その結果、言語間字体類似度が中日バイリンガルの語彙アクセスを妨げることがわかった。また、中日バイリンガルは脳内でどのように言語間で字体が全く同じ同根語を理解しているのかを脳波計測装置を用いて検討した。その結果、同根語の理解における中国語からの影響は書字レベルですでに生じていることがわかった。最後に、中日バイリンガルは字体類似度が異なる同根語を読むときに、L1中国語からL2日本語へのプライミング効果は脳のどの部位によって媒介されるかを調べるために、プライミング手法を援用した単語の意味判断課題を行い、同時にfMRIを用いて課題遂行中の脳機能活動を測定した。その結果、漢字同根語の読みにおけるL1-L2プライミング効果は左側頭皮質によって媒介されることがわかった。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Journal of Neurolinguistics
巻: 55 ページ: -
https://doi.org/10.1016/j.jneuroling.2020.100911