研究課題/領域番号 |
18F18336
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真島 和志 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70159143)
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研究分担者 |
MISAL CASTRO LUIS CARLOS 大阪大学, 基礎工学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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キーワード | 有機ホウ素化合物 / ニトロ基 / 還元反応 / ビピリジン |
研究実績の概要 |
廃棄物が少なく、短工程で目的化合物を合成する環境調和性に優れた金属錯体触媒反応の開発は、有機合成化学における重要な研究テーマの一つである。従来の触媒反応系がルテニウムやロジウム、パラジウムといった貴金属を中心としていることに対し、その他の汎用元素(第一遷移周期金属、前周期金属、典型元素)からなる触媒の開発は、元素戦略の観点から重要であるとともに、触媒コストの削減にもつながるため盛んに研究が行われている。本年度、前周期金属による反応開発を行う中で、その共触媒として反応系に添加していたホウ素試薬が得意な反応性を示すことを見出した。具体的には、ニトロ化合物とジボロン、ならびに、ジボロンの活性化剤として4,4’-ビピリジンを添加した反応系において、ニトロ基の還元反応が進行することが明らかとなった。従来、ニトロ基の還元には酸性条件や貴金属の不均一系錯体を用いた水素ガス雰囲気などが必要であったが、本反応では中性条件で進行し、さらに金属触媒が共存しないため、様々な官能基や炭素-炭素多重結合が許容されるという優れたニトロ基選択性を示す。この反応では4,4’-ビピリジンが有機触媒として作用し、ジボロンを活性化してニトロ基の脱酸素化反応を促進することが鍵段階であり、N,N'-ジボリルー4,4’-ビピリジリデンが反応活性種として作用していることが分かった。また、2-フェニルニトロベンゼンを用いて反応を行った場合、ニトロ基の還元体である2-フェニルアニリンに加え、カルバゾールが得られることを見出した。これは、反応中でナイトレンが短寿命化学種として生じることを意味しており、ニトロ基がナイトレン発生の前駆体となる可能性を見出した点で学術的にも興味深い成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題に掲げる前周期遷移金属錯体を用いた反応開発を実施する中で、当初、予期していなかった反応ではあるがニトロ基の還元反応が穏やかな条件下、金属を用いることなく進行することを見出した。本課題で対象とする反応は炭素-水素結合変換であるが、従来の貴金属系触媒を代替する安価な触媒の開発に関しても重要であると考えており、本年度に見出した反応は、4,4’-ビピリジンが有機触媒として、また、反応剤にジボロンが作用するという、単純で入手容易な触媒および反応剤による還元反応であるという点で、研究目標である貴金属を代替する触媒開発、における研究成果と位置付けられる。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素試薬と4,4’-ビピリジンを組み合わせた反応系が得意な触媒活性を示すことを明らかとしていることから、引き続き、この金属フリーな反応系による新たな反応開発として様々な有機化合物の基質としての適用可能性を見極めるとともに、特に、炭素-水素結合活性化を経る反応に用いることができないかを検討する。また、当初の遷移金属錯体を用いる反応に関しても、イットリウムやハフニウムなどのルイス酸性に富む金属の触媒としての適用可能性に関して継続して研究を進める。
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