本共同研究では、二次元材料とくに単原子層物質の特異な光学特性を精密に評価し、とくに原子レベルの構造とエキシトン効果の因果関係を調べることを目的とした。
第一の研究テーマは、通常の光吸収スペクトルと電子線をプローブに用いた電子線損失スペクトルとの物理的な関連づけである。これまでの教科書的な解釈では、通常の光を用いた光吸収スペクトルが誘電応答関数の虚数部を表すのに比べ、電子を用いた吸収スペクトルは複素関数となり、一般的にはクラマークロニッヒ変換を行うことでお互いを参照できる。ところが試料が極限まで薄くなると電子線損失スペクトルにおいても実数部の影響が小さくなり、両者のスペクトルはほぼ等しくなる。言い換えるならばバルク試料における電子線スペクトルではスクリーニングによる効果が無視できないが、電子密度の薄い二次元材料もしくは一次元材料においては、両者の違いはほとんど考慮しなくてよい。原理的には散乱ベクトルと伝搬ベクトルの向きの違いを検討することが必要になる。本共同研究では、このような両者の違いを原理に立ち返って説明し、かつ実験的に検証した。議論に加わったウィーン大学のThomas Pichler博士と共同で現在、論文準備中である。 第二の研究テーマは、異なるバンドギャップとエキシトンエネルギーを持つ2種類の二次元材料を様々な方位で積層し、層間に発生するエキシトンを測定しようというものである。実際には台湾清華大学の共同研究者が合成したWSe2とMoS2の2種類の結晶を、当研究室で積層し、かつモノクロメータと収差補正機構を備えた電子線分光器を用いて吸収スペクトルと原子レベルの積層構造を同時に観察し、それらの結果を精密に関連づけた。この成果は一本の論文と3件の学会発表としてすでに公表された。
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