本研究では、強磁性体と強誘電体とからなるマルチフェロイクへテロ構造を利用することで、電流を用いない電界のみによる磁化配向制御の実証とその物理機構の解明を目的としている。本年度実施した研究概要について以下に記す。 (1)強磁性FeRh/PMN-PTヘテロ構造における磁気特性の電界効果 昨年度に引き続き、B2規則構造を持つFeRh規則合金に対して、その強磁性組成領域に着眼し、強磁性FeRhと強誘電体PMN-PTとのヘテロ構造をMBE法およびPLD法により作製した。作製した強磁性FeRh/PMN-PTヘテロ構造に対して、磁気特性の電界効果を磁気光学Kerr効果を用いて評価した。その結果、Kerr信号に特異なヒステリシス挙動が観測された。このKerr信号の電界ヒステリシスは、強誘電体の歪曲線と類似した電界に対して対称な成分と電界に対して反対称な成分からなり、反対称成分に起因して、異なる二つの残留電界状態が現れることが明らかとなった。この残留電界状態は、PMN-PTの109度分極スイッチング過程とそれに起因する界面磁気弾性効果により解釈される。 (2)強磁性FeRh/PMN-PTヘテロ構造における強磁性共鳴の分極依存性 上記のヘテロ構造の異なる二つの残留電界状態に対して、強磁性共鳴測定を行った。その結果、強磁性共鳴の磁場依存性が、残留電界状態に大きく依存する共鳴周波数帯を持つことを見出した。具体的には、7.65GHzにおいて特に顕著な強磁性共鳴スペクトルの残留電界状態依存性が発現することがわかった。(1)の結果に基づいて、今回見出された強磁性共鳴スペクトルの残留電界状態依存性は、界面磁気弾性効果に伴う磁気異方性の電界効果に起因した結果として理解される。
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