原子層材料グラフェンは炭素原子1層厚のSP2結合原子シートであり、2003年の発見以来、その優れた電気的性質、機械的性質、熱的性質などから様々な応用分野で大きな注目を集めている。本研究は、バンドギャップがゼロであるグラフェンを、新原理のトンネルトランジスタ開発に用いるという逆転の発想に基づいた独創的プロジェクトである。具体的には、電子線および集束ヘリウムイオンビームを用いた超微細加工技術によりグラフェン膜をナノリボン(GNR)状に加工し、量子閉じ込め効果により小さなバンドギャップを形成する。これにより、高いトンネル電流を有するグラフェントンネルトランジスタ(GTFET)、およびグラフェン単電子トンネルトランジスタ(GSET)を作製し、その基本動作の実証を目的とした。 まず、大面積CVDグラフェン膜を用いて、電子線直接描画により、幅約30nmのグラフェンナノリボン上に2つの制御ゲート電極を有する素子を試作し、グラフェントンネルトランジスタ実現の上で重要となるp型・n型領域を電気的に形成し、非常に小さなクロストークの範囲で独立に制御できることを示した。このグラフェンPN接合素子を用いて、バンド間トンネル電流をオン・オフ比 ~ 5 x 10E5で急峻にスイッチングできることを初めて実証した。次に、サブ20 nm微細加工用電子線レジストHSQを用いて、幅約15 nmグラフェンナノリボンチャネルと、電極間隔23 nmの3つの近接制御ゲート電極を有するGTFET素子を作製し、低温領域(T < 40 K)でS係数~47 mV/decの急峻スイッチングを観測することに成功した。また、測定されたS係数の温度依存性データは、アレニウスプロットで評価した極細GNRチャネルのバンドギャップ値Eg ~ 70 meVを用いたバンド間トンネリング理論モデルとよく一致することを見出した。
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