研究課題/領域番号 |
18F18368
|
研究機関 | 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター) |
受入研究者 |
片岡 一則 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, センター長 (00130245)
|
外国人特別研究員 |
WANG ZHENG 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2018-11-09 – 2021-03-31
|
キーワード | 高分子ミセル / ドラッグデリバリーシステム / がん免疫療法 / 免疫チェックポイント阻害剤 / mRNA / 遺伝子治療 / 抗体 |
研究実績の概要 |
遺伝子治療はがんに対する有望な治療戦略として期待されており、数多くの臨床試験が行われている。メッセンジャー(m)RNA医薬は、非分裂細胞を含めたあらゆる細胞に対して安全かつ効率的に導入できるため近年注目されている。一方で、免疫チェックポイント阻害抗体を用いたがん免疫療法は、様々ながんに対する強い有効性が実証されつつある。そこで、本研究では、mRNA医薬を利用した免疫チェックポイント阻害抗体の産生に基づくがん免疫療法の構築を目的とする。 平成30年度までに、mRNAにコードする免疫チェックポイント阻害抗体として、承認薬である抗PD-L1抗体のアベルマブの単鎖抗体(scFv)にインターロイキン2由来の分泌シグナルと蛍光プローブを結合した人工抗体を用いることに決定した。また、これと並行して、mRNAをがん組織に送達するキャリアとして高分子ミセルの構築を進めた。 令和元年度は、設計した人工抗体をコードするmRNAの調製に加え、mRNAを内包する高分子ミセルの最適化とグリオブラストーマの同所移植モデルにおける機能評価を中心に研究を進めた。高分子ミセルの最適化については、材料となるポリエチレングリコール-ポリカチオンブロック共重合体のポリカチオン鎖の化学構造の最適化を完了し、粒径60 nmのmRNA内包高分子ミセルを得た。また、グリオブラストーマの同所移植モデルに対して、得られた高分子ミセルを腫瘍内投与あるいは髄腔内投与することで、mRNAにコードされたタンパク質をグリオブラストーマ内で効率的に産生できることを確認した。以上のように、免疫チェックポイント阻害抗体を用いたがん免疫療法の実現に向けた各要素技術の構築が完了し、当初の計画を上回る進捗が得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、mRNAを利用した免疫チェックポイント阻害抗体の産生に基づくがん免疫療法の構築に向けて、次のような特筆すべき成果を得ている。 (1) 免疫チェックポイント阻害抗体として、抗PD-L1抗体の承認薬であるアベルマブの単鎖抗体(scFv)を構築し、それが熱安定性に優れ、PD-L1分子に対して強い親和性を持つことを確認した。 (2) mRNAから翻訳されたscFvの細胞外分泌と生体内挙動のリアルタイム追跡を実現するために、アベルマブのscFvにインターロイキン2由来の分泌シグナルと蛍光プローブを結合した人工抗体を設計し、そのmRNAの調製を完了した。 (3) mRNAを生体内の標的細胞に送り込むために必要なキャリアとして、ポリエチレングリコール-ポリカチオンブロック共重合体を材料とする高分子ミセルを構築し、そのポリカチオン鎖の化学構造の最適化を完了した。得られた高分子ミセルは、60 nmの粒径を有し、生体内環境においてmRNAを安定に担持できることが確認された。 (4) 治療効果を評価するためのがん疾患モデルとして、グリオブラストーマの同所移植モデルを構築し、最適化されたmRNA内包高分子ミセルをこのモデルに対して腫瘍内投与および髄腔内投与した結果、mRNAにコードされたタンパク質がグリオブラストーマ内で効率的に産生されることを確認した。 以上のように、人工抗体をコードするmRNAの構築とmRNAを内包する高分子ミセルの最適化が完了したことに加え、得られた高分子ミセルを用いてmRNAの翻訳がグリオブラストーマ内で確認されるなど、当初の計画を超える進捗があった。一方で、上記人工抗体をコードするmRNAの機能とそれを搭載した高分子ミセルの機能についてはさらに検証を進める必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに当初の計画を上回る進捗が得られている一方で、各要素技術の融合によって得られる効果については未評価であることを踏まえ、令和2年度は次のように研究を進める。 (1) 前年度に調製したアベルマブ単鎖抗体(scFv)・分泌シグナル・蛍光プローブを連結した人工抗体をコードするmRNAを培養グリオブラストーマ細胞に導入し、人工抗体の産生効率および細胞外分布量について、蛍光分光法および蛍光顕微鏡により評価するとともに、PD-L1抗原に対する親和性を表面プラズモン共鳴法で評価する。 (2) 前年度に最適化した高分子ミセルに人工抗体をコードするmRNAを搭載し、培養グリオブラストーマ細胞におけるmRNA導入効率と人工抗体の産生効率を(1)と同様の方法で評価する。 (3) 人工抗体をコードするmRNAを搭載した高分子ミセルをグリオブラストーマの同所移植モデルに対して腫瘍内投与あるいは髄腔内投与し、グリオブラストーマ内における人工抗体の産生量の経時変化を蛍光イメージング法で評価するとともに、そのPD-1/PD-L1経路の阻害による抗腫瘍効果を核磁気共鳴イメージング法および生体発光イメージング法により評価する。
|