研究課題
多様な生物種には、それぞれの種を特徴づける形質があり、それを表現型とよぶ。そして、多様な生物種におけるそれぞれの表現型の多様性創出の分子メカニズムを理解することは、現代生物学における中心的な課題である。我々はこれまでに表現型の多様性と各々の遺伝子にかかる機能的制約(分子進化速度)を関連づける新規の進化学的手法を開発した (Wu et al. 2017 Current Biology)。この研究では、各々の遺伝子にかかる系統ごとの機能的制約の違いと、現生種にみられる表現型とを回帰することで、祖先種における表現型を推定することに成功し、さらにはそれらが化石記録と一致する結果を得た。同時に、この手法を用いて、社会性に関与する遺伝子や、繁殖周期に関与する遺伝子を見出すことに成功した。しかし上記研究においては、85種の哺乳類における1202相同遺伝子座という、ごく限られたデータを用いて遺伝子型と表現型の相関性解析をおこなったものであるため、本研究では、96種の哺乳類から15,154相同遺伝子座の配列データを集めてアラインメントまでの作業をおこなった。そして、それらを上記手法によりあらためて解析した。現在は特に生活史(行動・生態)に焦点を当てて解析しているが、すでにいくつかの興味深い遺伝子を候補として見出すことに成功している。これらの遺伝子機能がいかなるものかを文献により精査し、実際に哺乳類の生活史にどのような関連があるのかを調べて、それらを論文としてまとめていきたいと考えている。これからはさらに形態学的な形質にも焦点を当てたいと考えているため、あらたに哺乳類の表現型データベースの整備も開始した。
2: おおむね順調に進展している
哺乳類における相同遺伝子座の単離は計画通りに進み、これまでの10倍にのぼる遺伝子を網羅的に解析することが可能になった。そのため、解析によって見出される候補遺伝子の数も十分に増えた。このことより、進捗はおおむね順調であると考えている。
上記計画を引き続き実施、生活史を支配する多くの候補遺伝子を単離することを目指す。加えて、本研究のもう1つの課題は、上記手法により表現型を支配する遺伝子(群)の機能を、さらなる解析により検証することである。Wu et al. (2017) においては、表現型の進化に関わる多くの遺伝子群を明らかにしたが、本研究ではデータ量を増やすことで解像度を大幅によくした解析をおこなっていく。さらに、表現型進化に関わるとすでに特定された遺伝子群のさらなる選択圧解析や、それらのネットワーク解析を進めることで、表現型と遺伝子型の関連性について、実際にヒトや哺乳類の寿命に注目したより具体的な遺伝子探索・検証を進める予定である。
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Molecular Biology and Evolution
巻: 35 ページ: 2928, 2939
doi: 10.1093/molbev/msy186
http://www.nikaido.bio.titech.ac.jp