本研究の主な目的は、近年のシーケンサーの技術開発に伴って全ゲノム配列が広く公開された哺乳類について、遺伝子型と形質の相関性解析をおこなうことで、表現型を支配する遺伝子群を網羅的に探索していくことである。本研究期間中において、我々が共同研究によって決定したオオコウモリゲノム2種の配列に加え、その他哺乳類22種の全遺伝子を網羅的にアラインメントし、まずは哺乳類の大系統樹の構築をおこない、オオコウモリの系統的位置に関する新しい知見を得た。続いて、その系統樹情報とアラインメント情報について、進化解析プログラムPAMLを用いた解析をおこなうことで、オオコウモリに特異的な形質に関わる遺伝子を網羅探索した。その結果、オオコウモリにおいては免疫系やアミノ酸代謝に関わる遺伝子において自然選択の働いた痕跡を見出すことに成功した。この結果は、オオコウモリにおける高い抗ウィルス免疫力を持つことや、果物食に偏った食性を持つことと強く関連すると示唆され、この成果はゲノム分野の国際誌であるDNA Researchに掲載された。また、上記の種間比較に加えて同種内の多個体のデータを統合して解析することで、種内の多様性は新規の突然変異よりもむしろその祖先から引き継いだ進化速度により大きな影響を受けることを明らかにした。この成果の内容は国際誌に投稿し現在は査読を受けているところである(査読前の原稿はBioRxivで公開中)。大規模ゲノム比較に関する一連の研究で、遺伝的多様性を生み出すメカニズムや、それに起因する表現型の多様性に関わる具体的な遺伝子を明らかにすることができたと考えている。
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