研究実績の概要 |
本研究の目的は、化学発光イムノアッセイにおける検出手段として一般的な酵素標識法に代わる新たな手段として、キノンをシグナル発生タグとして用いる非酵素的超高感度化学発光法を開発し、化学発光イムノアッセイへの応用することにある。今年度は、アビジン-ビオチンシステムを利用して抗体へのキノン標識を可能とする試薬として、biotin-1,4-naphthoquinone、biotin-1,2-naphthoquinone 及び biotin-(lys-1,2-naphthoquinone)8 の 3 種類の化合物を合成した。Biotin-1,4-naphthoquinone 及び biotin-1,2-naphthoquinone はルミノール及び還元剤ジチオスレイトール (DTT) との混合により長時間持続する強い化学発光を与えることが確認された。また、これらの化合物は化学発光イムノアッセイで一般的に用いられるビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼと比較して優れた安定性を有していることが明らかとなった。さらには、biotin-1,4-naphthoquinone 及び biotin-1,2-naphthoquinone をアビジンやビオチン化抗体の標識に利用できることも確認した。また、biotin-1,2-naphthoquinone は biotin-1,4-naphthoquinone よりも 10 倍程度高感度に検出できるという結果であった。3つめの試薬である biotin-(lys-1,2-naphthoquinone)8 は、ポリリジンを介することで1つのビオチンに対して8つのキノン部位を結合させた試薬であり、biotin-1,2-naphthoquinone よりも化学発光強度を大幅に向上できることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で開発した biotin-1,4-naphthoquinone は従来の化学発光イムノアッセイでも広く用いられているビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼよりも優れた感度、発光特性及び安定性を有していることが確認され、実際にアビジンやビオチン化抗体の標識に利用できることも確認できた。この成果は、分析化学分野で高い評価を受けている学術雑誌へと掲載された(DOI of 10.1016/j.bios.2020.112215)。続いて開発した biotin-1,2-naphthoquinone は biotin-1,4-naphthoquinone よりもおよそ 10 倍高感度に検出可能であった。最終的には biotin-1,2-naphthoquinone を食物アレルゲンであるβカゼインのイムノアッセイへと応用することができ、その感度や安定性は ELISA よりも優れていることを確認した。我々は、本研究で開発したビオチン化キノンを用いるイムノアッセイを chemiluminescent quinone immunoassay (CLQIA) と名付けた。
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今後の研究の推進方策 |
3つめの試薬として合成した biotin-(lys-1,2-naphthoquinone)8 について、その最適な化学発光反応条件及び化学発光特性を調査することにより、さらに高感度な CLQIA の構築を目指す。さらに、CLQIA に適した新規化学発光試薬として、ルミノール誘導体である N-(4-aminobutyl)-N-ethylisoluminol (ABEI) と還元剤 α-リポ酸(lipoic acid, LA)を直接結合させた化合物 ABEI-LA を開発し、これを用いることでもさらに効率の良い CLQIA の開発を検討する。されには、本法の原理を発展させた B/F 分離が不要なホモジニアスイムノアッセイの開発についても検討を行う。
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