本研究では、社会的交流を評価できる指標として日常生活における会話量を客観的に測定し、うつ傾向を考慮して認知機能との関連を検討することを目的とした。本研究の対象者は、National Center for Geriatrics and Gerontology-study for geriatric syndromesに参加した地域在住高齢者の中、85名が調査に参加した(平均年齢79.0 ± 3.7歳)。会話量の評価は、生体センサーが装着されている活動量計を14日間装着し、測定した。うつ徴候は、the Geriatric Depression Scaleを用いて評価し、認知機能は、National Center for Geriatrics and Gerontology Functional Assessment Toolを用いて評価した。ベースラインの会話時間とベースラインの認知機能低下の有無について有意な関連がみられた。うつ徴候と認知機能との関連においては、記憶力、注意機能、遂行機能において有意な関連が認められた。また、うつ徴候がある群は、うつ徴候がない群に比べ、会話時間が短いことが明らかになった。一方、会話時間と認知機能との縦断的な関連においては有意な関連は認められなかった。ベースラインの会話時間と各認知機能との関連においては、ベースラインの会話時間が短い群は、記憶力の得点の変化において有意な関連が認められた。これらのことから、客観的指標によって、うつ高齢者は会話が少なく認知機能が低下していることがわかったが、その因果関係などについては明らかにするまでには至らなかった。今回の研究をもとに、大規模健診時に会話の評価項目を導入し、長期間の追跡期間、例えば認知症の発症をアウトカムにして、長期の縦断期間を設定し、認知機能との関係性を精査していく必要があると考えられた。
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