DNAメチル化やヒストンの翻訳後修飾といったエピゲノム機構の解明の進展と比較して、RNAのメチル化機構に関する分子機構は未解明な点が多い。そのため本研究では、脂肪細胞分化過程におけるRNAメチル化修飾制御因子の影響を検討した。脂肪細胞分化モデルとして3T3-L1細胞を利用し、CRISPR-Cas9システム用いて脂肪細胞分化に関与するRNAメチル化酵素をスクリーニングした結果、Alkbhファミリーの関与が示された。その中でもRNAのm6A脱メチル化酵素であるAlkbh 9(Fto)が、RNAメチル化を介した脂肪細胞分化制御に関与することを示唆する結果が得られた。この結果に基づき、Alkbh 9欠損細胞を用いたメチル化RNA免疫沈降法(Methylated-RNA immunoprecipitation (MeRIP))を実施した。詳細には、分化誘導後2日後のAlkbh 9(Fto)欠損3T3-L1細胞および対照の3T3-L1細胞からRNAを抽出し、断片化バッファーで処理して300 nt程度に断片した。断片化したRNAを磁性ビーズに結合させた抗m6Aもしくは対照IgGとともに免疫沈降し、洗浄後に回収した。回収したRNAは逆転写を行い、得られたcDNAは総量を計量したうえで、qPCR法を用いて特異的領域を定量化し% input値を解析した。qPCR法に用いる脂肪細胞分化制御因子領域に設計したプライマーは、RNAメチル化コンセンサス配列をまたぐプライマーセットとコンセンサス配列を含まないプライマーセットの両方を準備した。その結果、抗m6A を用いた免疫沈降では対照IgGに比較して有意に多いcDNA量が得られた。また、qPCR法の結果、RNAメチル化コンセンサス配列をまたぐプライマーセットでは、含まないプライマーセットに比較して顕著な% input値の変化が認められ、その程度は欠損細胞で高値を示した。この結果は、RNAのメチル化修飾を制御するエピゲノム酵素欠損が脂肪細胞分化に関与することを示すものであった。
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