研究課題/領域番号 |
18F18736
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下郡 智美 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (30391981)
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研究分担者 |
LIU WEIQING 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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キーワード | 介在ニューロン / 統合失調症 / 行動 / 生後発達 |
研究実績の概要 |
個々の遺伝的背景に加えて生後の発達期の経験が、成体の脳機能に影響を与える事が近年明らかになりつつある。特に成体で発症する統合失調症は発達期のなんらかの影響によって、発症するリスクが上昇している事が示唆されている。そこで、統合失調症のモデル系と知られる、発達期の社会分離や抗鬱薬のMK801の発達期の投与を用いて発達期に起きる障害を明らかにする。特に、Defalt Mode Networkで統合失調症において活動レベルが大きく健常者と異なる内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex :mPFC)で、興奮性細胞と抑制性細胞のバランスが崩れている事が示唆されていることから、介在性ニューロンの発達様式を明らかにする。発達期の様々な経験がmPFC内での抑制性細胞の細胞移動、形態変化、機能を様々な発達期の経験によってどのように変化するのかを明らかにする。加えて、マウスで明らかにされた統合失調症モデル動物での発達期の異常が霊長類モデル動物でも保存されているのかを、コモンマーモセットを用いて明らかにする。コモンマーモセットにMK801を投与した統合失調症モデル動物を作成し、マウスで明らかにされた介在ニューロンの移動への影響を観察する。さらに統合失調症リスク遺伝子と言われている遺伝子のリストアップを行い、脳内での詳細な発現パターンを明らかにする。加えて、統合失調症リスク遺伝子がMK801投与後にどのように変化するかを明らかにする。これらの結果を通して、統合失調症の発達期での影響を明らかにし、幻覚や幻聴といった統合失調症で起こる症状を駆動する神経回路を同定し、原因となるメカニズムの解明に繋げる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳皮質内に分散する介在性ニューロンは、胎生期に終脳腹側にあるganglionic eminenceで産生され、tangential migration modeによってゆっくりと大脳皮質に拡散していく。前頭葉(mPFC)での介在ニューロンの発生の継時的変化を明らかにするために、様々な介在ニューロンマーカーで染色し、細胞移動のタイムラインを明らかにした。さらに統合失調症のモデルとされるMK801投与の条件検討を行い、体の発生(体重増加、行動の変化)に影響を与えないレベルでの投与量を決定した。今後はこのMK801投与モデルを利用して、mPFCでの介在ニューロンの発生への影響、さらに幼若期でのMK801投与による成体での行動変化を明らかにする。行動実験を行えるようにするための施設の準備等はすでに行った。また、介在ニューロン特異的にGFPまたはLacZを発現するマウスの準備も行なっており、介在ニューロンの可視化ができる状態を準備できている。これらに加えて、マウスで明らかにできる統合失調症モデルでの介在ニューロンの発生への影響が、霊長類でも保存されているのかを明らかにするために、霊長類モデル動物であるコモンマーモセットの脳内での遺伝子発現変化を明らかにする準備を行なっている。これには我々の研究室で開発しているマーモセットISHデータベースを用いて、統合失調症リスク遺伝子リストアップを行っている。統合失調症リスク遺伝子はGWASカタログ、DisGenet等のデータベースを駆使して行い、現在50遺伝子のリストアップを行なっている。今後はこれらの遺伝子の発現パターンを詳細に解析し、マーモセットでもMK801投与による遺伝子発現変化を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
大脳皮質内に分散する介在性ニューロンは、胎生期に終脳腹側にあるganglionic eminenceで産生され、tangential migration modeによってゆっくりと大脳皮質に拡散していく。統合失調症モデル動物(胎児期での母体感染または母体の鉄欠乏)ではmPFCに拡散する介在性ニューロンの数が少ないことが報告されていることから、MK801での細胞移動に影響があるのかを明らかにする。Parvalbumin-creマウスとCalbindin-creマウス(どちらも抑制性細胞のマーカー)を用いて、介在性ニューロンをラベルしたのちにMK801投与群でのmPFCの細胞数の測定を行う。また、差が認められた場合には、発達のどの時期で差があるのか継時的な解析を行う。さらにはスライスカルチャーを用いて、細胞移動の速度を明らかにし、介在性ニューロンの移動におけるMK801の影響を明らかにする。 介在性ニューロンは目的の場所に移動したあと、樹状突起を伸ばして近傍の神経細胞と接続を行う、このため、樹上突起の正しい形態形成(本数、枝分かれ、長さ)は近傍回路の形成に重要である。そこで、mPFCでの介在性ニューロンの形態形成にMK801が影響を与えているか明らかにする。Parvalbumin-creマウスとCalbindin-creマウスをロサーGFPマウスと掛け合わせることにより介在性ニューロンを特異的に可視化し、発達期にMK801投与群での形態をコントロール群と比較する。さらに、我々の研究室で開発しているマーモセットISHデータベースを用いて、統合失調症リスク遺伝子の発現を明らかにし、マウスの発現と比較することにより霊長類特異的な遺伝子発現を明らかにする。
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