個々の遺伝的背景に加えて生後の発達期の経験が、成体の脳機能に影響を与える事が近年明らかになりつつある。特に成体で発症する統合失調症は発達期のなんらかの影響によって、発症するリスクが上昇している事が示唆されている。そこで、統合失調症のモデル系と知られる、抗鬱薬のMK801の発達期の投与によって、成体での行動異常が起きるかを検討した。この結果、MK801を発達期に投与された個体は成体で不安様行動の増加が起きることを明らかにした。この行動変化がどのような神経回路形成異常によって起きているのかを明らかにするために脳内での神経活動を観察したところ、これまでに統合失調症に関わるとされる脳領域と全く異なる脳領域で抑制性細胞の選択的な活動抑制を明らかにした。今後はこの脳領域の神経細胞特異的にCre を発現するマウス(入手済み)を用いて、DREADDマウスとの組み合わせにより、発達期の時期特異的に神経活動を変化させ、成体での行動への影響を観察する。さらにこの脳領域がどのような神経接続をすることによって機能障害を起こしているのか明らかにする。加えて、GWASの結果から統合失調症と関連が高いと言われている遺伝子の霊長類脳での発現を、コモンマーモセットを用いて行なった。Marmoset Gene Atlasに登録されている2000を超える遺伝子とMGA内の遺伝子発現検索機能(AGEA)を利用して、マーモセット脳内の網羅的な発現検索から、統合失調症、自閉症、ADHDリスク遺伝子が共通に発現するホットスポットを複数発見した。今後はホットスポット内でこれらの遺伝子が発現する細胞種を絞り込み、リスク遺伝子がどのように神経回路形成に影響を与えているのかを明らかにする。
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