研究課題/領域番号 |
18F18750
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 則雄 京都大学, 理学研究科, 教授 (10169683)
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研究分担者 |
RAUSCH ROMAN 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-10-12 – 2021-03-31
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キーワード | DMRG / 非平衡 / 動力学的性質 / 近藤効果 |
研究実績の概要 |
本研究の中心テーマの一つは、近年急速に研究が進展している強相関系の動力学的現象の理論研究である。本年度は数値計算手法の改良を行うと共に、局所的な多体効果である近藤効果を格子系に拡張し、時間依存性に注目して動力学的な性質を調べた。協力研究者のRauschがハンブルグ大学在籍中に改良を重ねてきた密度行列くりこみ群(DMRG)を用いて、時間・空間的な相関に現れる新奇現象を明らかにした。以下に本年度の主な研究の進展をまとめる。 (1)まず計算手法の改良に取り組んだ。特に、動的DMRGの最適化の方法の改良を行った。この改良によって、系の電荷・スピンのSU(2)対称性を保持しつつ、任意の2次元格子に関して熱力学的極限での基底状態の計算ができるようになった。 (2)近藤格子模型に対して希薄密度領域で新しいタイプの状態を発見した。このような希薄密度領域では磁気的ダブロンと呼ばれる異なるスピンをもつ2電子ペアが形成される。これがマグノンと結合することにより、より動きやすくなる。その結果、強磁性状態でのバンド幅を大きく減少させることを見出した。この状態は逆光電子放出で観測することができる。また、冷却原子ガスを用いてダブロンの存在を確認することができることを指摘した。 (3)動的DMRGを応用して、強磁性状態と結合した2つの量子スピンの緩和ダイナミクスの計算を行った。その結果、一つのスピンをスイッチオンすると、他のスピンがゆっくりと緩和することを見出した。これは動的RKKY相互作用の考え方によって理解できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、順調に研究が進んでいる。本研究で注目しているのは主に強相関系における性質の中で特に動力学的性質である。この取り扱いは、一般にたいへん難しいものであるが、近年の高度な数値計算手法の進展により、重要な結論が多く見出されている。ここでは、密度行列繰り込み群とよばれる数値計算手法を改良して、近藤効果の物理を中心に動的な多体効果の研究を推し進めることができた。 計算手法の改良:協力研究者のRauschの得意とする密度行列くりこみ群のスキルを基に、これをさらに改良することができたことは計算技術面での進展である。上に記したが、この改良により、系の電荷・スピンのSU(2)対称性を保持しつつ基底状態の計算ができるようになった。 近藤格子系への応用:この改良された計算手法を応用することで、近藤格子模型の動的性質の詳細な研究が可能になった。近藤格子模型は重い電子系を中心として、強相関電子系を記述する重要な模型である。今回は、希薄な電子密度領域に注目して、磁気的ダブロンの性質に関して面白い結果を得ることができた。 スピンの緩和ダイナミクスへの応用:密度行列繰り込み群の重要な応用として、量子スピンの緩和ダイナミクスを扱った。その結果得られたゆるやかなスピン緩和現象も興味深い物理を内在しており、次年度も、集中的に研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の近藤不純物における動力学的性質の研究を継続して進めるとともに、磁気ポーラロンに関する研究もさらに深める。磁気ポーラロンは磁気的な雲をまとった電子であり、この動力学的な性質には近藤効果と共通する部分が多い。磁気ポーラロンと他の準粒子との相互作用による動的性質も重要な問題であり、遷移金属化合物や希土類化合物の時間依存現象に応用できる。磁気ポーラロンの典型例として、近藤格子系のダブロン拡散の有効模型を導出し解析を行う。この結果をもとに磁気的ダブロンの現象論を完成し、論文公表する。
量子スピンの緩和ダイナミクスを拡張し、スピン軌道相互作用の効果、クーロン反発の効果、結晶構造の効果などを調べる。DMRGの手法とLindbladの方法を組み合わせて、より長時間のダイナミクスの計算を可能とする。Lindbladの形式を開放近藤系に応用し非エルミート現象との関係を明らかにする。動的DMRGを用いて、周期的駆動したフロケ系の相図を完成する。これには、多体系の数値計算の専門家である、同じ研究室所属のPeters講師にも共同研究に参加してもらう。異なる理論手法を合わせて用いることでシナジー効果が生まれ、強相関系において面白い成果が得られると考えている。研究費は主に成果発表、情報収集のための旅費に使用する。
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