研究実績の概要 |
これまでの経済学の伝統では、産業の生産性増加の貢献は、産業内の企業が同質的であるみなして、資本と労働のほかに「全要素生産性」という第三要因を入れて計測する。しかし、全要素生産性というアイディアは、産業内で異なる技術が並存して生産性格差が拡大しながら成長する場合には、重要性を失う。いま総生産性の成長率APGへの貢献度を以下のように分解してみる。APG= 企業自身の成長率within (W)+企業の相対的サイズの変化 between (B1)+平均技術からの乖離 hetero (B2)。第3項が産業内の異質性を測定している。本研究では、帝国データバンクCOSMOSの日本企業の決算書を利用して、まずイタリアで研究された2005/6年のセメント産業の経験的分析と比較してみた。投入変数は従業員数、固定資産、出力変数は営業利益である。日本のセメント産業では2005/6年では非上場を含む企業総数は226社。この期間の成長要因の推計値は、APG= -0.01024031,W=-0.01008669, B1=-0.0001536175, B2=-3.131299e-10であった。さらに、本研究では、独自に2015/16年の工作機械関連産業を選んで推計した。ここで、非上場を含む企業総数は167社。この期間の成長要因の推計値は、APG=-0.00890652, W=-0.01490736, B1=0.006000871, B2=-2.606921e-08であった。セメント産業でも工作機械産業でも、日本のデータでは、異質性の動きはきわめて微小であり、さらにイタリアと相反した動きをしているように見える。つまり、異質性の増大はほとんど総生産性の増大に寄与していない。以上が、これまでの研究成果である。
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