研究課題/領域番号 |
18F18785
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 茂 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50287950)
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研究分担者 |
BALOGH LEHEL 北海道大学, 文学研究院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2018-11-09 – 2021-03-31
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キーワード | ニヒリズム / 無 / 空 / 日本哲学 / 内観療法 / 森田療法 / 健康 / メンタルヘルス |
研究実績の概要 |
今年度は第一に、日本哲学におけるニヒリズムおよび「無」「空」の概念について文献を通して検討・考察を進め、三篇の査読付き論文を執筆した。その成果を批判的に検証するため、複数の学会で研究発表を行い、当該分野に詳しい研究者と議論を行った。Roma TRE University で5月に行われた国際学会"Philosophy and Madness"で研究発表、同じ5月にセゲド大学で2回にわたり講演、7月には長崎大学で行われた日本内観学会第42回大会で研究発表、9月には早稲田大学で行われた国際学会"Second International Conference on Philosophy and Meaning in Life"で研究発表を行った。 第二に、日本独自の精神療法である内観療法の研究にとりわけ注力し、様々な成果を挙げることができた。まず日本内観学会会員となり、大会で研究発表を行った。また、内観療法の理解のためにはその実際のプロセスを体験する必要があるため、第一人者である千石真理氏(大阪学院大学)の指導のもと、鳥取市の心身めざめ内観センターで内観の実践を行った。その英文報告が出版準備中である。その他、千石真理氏へのインタビュー、文献の調査等により、内観療法の研究が大幅に進捗した。 第三に、より知名度の高い日本発の精神療法である森田療法の研究を進めた。これについては、文献による調査を進めた上で、森田療法の理論・実践両面に詳しい田所重紀教授(室蘭工業大学)へのインタビューを行い、森田療法の哲学的・倫理的基礎について、理解と考察を深めることができた。 上記のような研究により、西洋的なニヒリズムのもつ観念性を克服する方途として、日本的な精神療法の具体的な行為的実践に含まれるポテンシャルを探り、心の健康という現代の世界的課題に対応しうる「無」の思想について考察を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、三篇の査読付き論文を執筆し、出版またはアクセプトに至っている。国際学会等で合計5回の研究発表を行ったほか、16篇の書評を執筆し、そのうち13篇が出版済み、3篇が採択済みである。このように、今年度の研究の進展に伴って、予想以上のペースで成果発表を進めることができたことが、上記のような自己評価を行った第一の理由である。 第二に、千石真理氏への内観療法についてのインタビューおよび内観の実践、田所重紀氏への森田療法についてのインタビュー等を通して、日本的心理療法への理解が大いに深まったことが挙げられる。これにより、当初想定していた範囲を超えて、ニヒリズムと「無」の思想に対する独自の視角が開け、本研究の総まとめとして準備している書籍の内容が、これまでの西洋的ニヒリズム研究においては盲点となっていたような新たな思考方法を含んだものになりうると予想することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、当初の予定より日本的心理療法の研究が占める割合が増している。これは、日本における実地調査の結果として、本研究のテーマに対する日本的心理療法の重要性がますます明らかになってきたからである。現在、本研究の成果全体をまとめる書籍を執筆中だが、そこにおいても、日本的心理療法について、当初の予定より大きく取り扱う方向で準備を進めている。これにより、ニヒリズムおよび「無」の思想についての研究としては、これまで西洋世界では見られなかった独自性の高い内容の書籍を世に問うことができる。これにより、本研究を当初予定よりさらに進捗させることが可能になる。
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